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これまでの滑稽俳句大賞受賞作品
第一回 第ニ回 第三回 第四回 第五回 第六回 第七回 第八回
第九回 第十回 第十一回第十三回 第十四回 第十五回
第十回滑稽俳句大賞
 
愛媛県 堀川明子
わが町の絶滅危惧種こいのぼり
運転で決まる田植の上手い下手
梅雨入りの今日は無罪の雨女
日傘さす光合成せぬヒトなれば
水泳が下手で子どもを溺愛す
七夕や短冊に書くエゴイズム
別腹の常連となり薩摩芋
お茶碗を丼に替へ今年米
紙の本なんて呼ばれて文化の日
煩悩の尽くことなしや除夜の鐘




受賞の感想
受賞の知らせに、喜びよりも戸惑いの方が大きかったです。
一年ほど前に知人に俳句を勧められましたが、仕事がありますし、句会に参加するのも難しいと伝えました。しかし、知人は俳句の本を四冊もプレゼントしてくださいました。それで何もしないわけにはいかないと、本を読んで二句つくりました。句会に俳句は出しましたが、仕事のため欠席しました。その俳句が、句会で高得点だったと電話で知らされ、こうなると一度は顔を出さねばと思い、句会に参加するようになりました。私が俳句を始めたきっかけこそが、「滑稽俳句」でした。今回の受賞は、「ビギナーズラック」の一種と考えています。これを機に、学びを深めて実力をつけていきたいと思っています。ありがとうございました。

 
愛媛県 日根野聖子
ぜんまいやよくできましたのぐるぐるの丸
亀鳴くや嘘をつきつつ人は生き
合格点自分に出せぬまま四月
噛みついてきさうな気配大筍
神様の揮う一太刀流星は
くすぐつたくらゐの愛を赤い羽根
はきはきと喋る家電やうそ寒し
言ひ訳のいつまで続く冬雲雀
神々のぼやきにあらむ冬の雷
数へ日や有意義になど過ごすまじ




受賞の感想
俳句を始めて十五年近くになります。初心者ではないかもしれませんが、それでもベテランとはまだまだ思えません。未だに知らなかった季語に出会い、知らなかった日本語を知ります。あとどのくらい俳句を続ければ、「俳句のことは全て分かっています」と言えるのか、全く先が見えません。
しかし、だからこそ、俳句をつくり、句会に参加し、歳時記や国語辞典を開き続けているのでしょう。
俳句の「滑稽」という本質も、近づいたと思うとすっと遠くなり、掴んだと思うとさっと消えてしまいます。しっかり自分のものになったと思えるまで、滑稽を追求していきたいです。

 
埼玉県 三上通而
新蕎麦の腰を強くと四股を踏み
川底に己が足見る箱眼鏡
風花の如く人生軽くなり
入居なし窓に西日の当たる部屋
手の内は全て見せます水中花
存分に老いたる嫁の秋茄子
秋わびしサプリメントを手放さず
短冊の告白読まる星祭
たどたどし言葉の続く御慶かな
マスクして他人行儀となりにけり




受賞の感想
『俳壇』で、滑稽俳句大賞の募集を知り応募致しました。「春の日や期待の中に封を切り」。入賞の報せに驚き、反面嬉しさに浸っております。ゆるキャラのふっかちゃん≠ニ葱の産地を終の住処と決め、日々の暮らしの中に俳句も少し加えております。
今回の受賞を機にユーモアとさわやかな作品作りに励みたいと思います。
最後に滑稽俳句の編集部の皆々様および、選考委員の先生方に感謝申し上げます。

 
愛媛県 久我正明
初夢は廊下ひたすら走るだけ
お出かけのついでに家出春の服
しゃぼん玉妻へ妻へと風が吹く
金魚来てくるりと何か捨て台詞
向日葵にブラジャー吊るし露天風呂
放課後の大人の会話すいっちょん
お隣の金木犀の臭きこと
ひとことを言へば五倍に冴返る
忘年会壁の上着が肩を組む
どの人も埴輪顔なり熱燗派


 
三重県 小林英昭
春の土妊娠三か月ですつて
浮いてきて蝌蚪は空気とキッスする
半熟になつてでてゐる朧月
したくてもできぬスキップ春の蛇
東海林太郎真似てつくしの喉自慢
ぜんまいを象の耳さうぢにつかふ
うすらひや切れて短き金運線
ひとり分つめて目刺となる屋台
山ざくら上中下巻とりそろへ
亀の鳴く池を近日大公開


 
千葉県 伊東 真
初夢に富士子鷹子といふナース
ぶらんこが二ついづれに乗るべきか
不登校友を離るる雀の子
直球の握りでかじる青林檎
空梅雨や涙を見せぬ未亡人
夏痩のままリバウンドしてくれず
朝顔のあくび並んでゐる垣根
天の川入水心中したき恋
温泉のカピバラめける日向ぼこ
未完成のっぺらぼうの雪達磨


 
東京都 幸田 一
たくさんの毛皮を抜けて知らぬ街
数え日の棚から棚へ薬剤師
去年今年開いたままで伏せる本
朧夜の橋のおとこの差し出す手
菜の花のベンチ飛び出す選手たち
たましいの内側にあるところてん
友達の家の匂いとコカコーラ
新米の炊かれるだれもいない家
きちきちが顔上げて見る副都心
稲妻に間にあうように家を出る


 
審査方法と結果

十句を一組とし、一組を一作品として、十句すべての出来栄で評価、審査を行いました。応募者総数九十二名、九十四組すべての作品を、無記名で各審査員にお渡しし、ご審査いただきました。一位から五位までを選出いただき、一位は五点、二位は四点、三位は三点、二位は二点、五位は一点として集計しました。


その結果、以下の各氏が受賞されました。最高得点の十四点で大賞を獲得したのは、堀川明子でした。次点は、十二点の日根野聖子、三上通而でした。入選は、十一点の久我正明、十点の小林英昭、伊東真、九点の幸田一でした。


以下、高得点者は、石倉俊紀、緒方順一、小川飩太、小野智輔、加川すすむ、北山順子、古後粒勝、阪根瞳水、白井道義、鈴木良二、田敏男、武田悟、辻雅宏、中村俊彦、奈々志野幻語、土生洋子、藤兼雅幸、帆足あさ、本門明男、町井直之、南とんぼ、矢野姫城でした。

(五十音順)

 
審査経過と講評
「俳味を超える」
「軸」主宰・全国俳誌協会会長 秋尾敏

滑稽俳句と言うからには、俳味を超えた直接的な滑稽感が必要であり、かつ川柳色を弱める必要があると考える。その意味で一位には些か軽すぎるとは思ったが、基準に合致したものを選んだ。二位以下にはシュールさを加味したものなど、新しい滑稽感に共感したものを選んだ。
「切れ」を作れば更に俳句観が増す句や、十句のうちの前半は良かったが後半がつまらなすぎた作品、抽象語の裁き方が上手くないものがあった。また、よくまとまってはいたがインパクトのなかったもの、切れによる省略と他人事に見せない作りによって俳句らしい作品に仕上げて頂きたい作品があった。

 
「俳句という詩形式」
「豈」同人・「船団」同人 池田澄子

俳句という詩形式は有り難いものだとつくづく思わせていただきました。私の一位の作品は、多分、実体験でしょう。体験の一つ一つに心躍るのは、俳句を書く人だからこそ。真面目に詠んでいるが故の惨めさに、なんとも言えない滑稽がありました。惨めや不幸さえ楽しんでしまうのが俳人。

 
「俳諧の源泉」
俳人協会「俳句文学館」編集長  上谷昌憲

今回の応募作品九十四編は、一段とグレードが上がったように感じられた。「滑稽」は俳諧の源泉であることを念頭に置けば、応募された方々こそ現代俳句のメーンストリートを歩かれているのかも知れない。私が推した一位の作品は上質な人事句。洒脱なペーソスで揃えられている。並々ならぬセンスを感じた。二位は、一位と間然とするものではない。両者の掴み所に瞠目した。三位の作品は実感があり、季語が効いていた。実感と言えば四位の句もそうで、五位は現代を詠んで面白さのある作品であった。俳人はもっと滑稽俳句を学ぶべし。

 
「実体験の句を」
「山彦」主宰・山口県俳句作家協会会長 河村正浩

 実に自在に詠まれており、滑稽を堪能させて頂いた。ただ、滑稽を意識し過ぎたせいか駄洒落や言葉遊びに終わった作品、発想の川柳的なものが散見した。滑稽には笑いを伴わない滑稽もある。アイロニー、ペーソスのある句、又は微苦笑を誘う句である。
選考は、先ず十句が平準化されていること。次いで頭で捻った句ではなく実体験に基づいたと思われる作品を選んだ。従って佳句が揃っていても一〜二句が共感できないために選外とした作品も多い。その多くは推敲不足であり、実に惜しまれた。俳句は、作ってすぐに発表しないで、数日置いて冷めた目でもう一度見直すことである。

 
「面白くなった句」
子規新報編集長 愛媛新聞俳壇選者  小西昭夫

面白いと思う滑稽俳句は、ずい分たくさんあったのだが、十句すべての句の出来栄えをトータルに評価するとなると、なかなか悩ましい選考になった。十句全てが満足できる作品は、残念ながら、なかなかない。推したい句もあれば、そうでない句も混じっている。結局は、滑稽句と認められる句が一番多い作品を一位に選んだ。この作品には、季語の使い方に感心した句も多かった。選考をしながら改めて思ったのは、面白くした句はあまり面白くないということ。面白くなった句にもっと出会いたい。

 
「何を詠うか」
「夢」同人  小町 圭

滑稽句は、虚実で言えば「虚が一で実が九」から「虚が九で実が一」まで広く表現できる。しかし、 五対五の句はつまらない。ことば遊び、リズムで五七五または六六五。中七でなくてはと固く主張する人もいるが、全体で詠んでみて韻律が旨くはまる時がある。俳句は、所詮結果オーライの世界なのだ。また、短律の句も、筆者は内容次第で受け入れる。問題は何を詠うかである。

 
「諧味溢れる句」
「春耕」編集長  蟇目良雨

一位には、十句全て鑑賞に耐えられるレベルを保ち、かつ、諧味に溢れているものを選んだ。作者の驚きと喜びが季語を得て躍動している句や、対象の捉え方が非凡な句、読者に期待感を持たせるものなど、他を圧してお見事という他ない作品であった。諧味に満ちた全ての句を鑑賞したいが、紙数が尽きた。

 
「参りました」
俳壇賞選考委員・俳人・女優  冨士眞奈美

 いやあ、参りました。なんて皆さまお上手なんでしょう。九十四組の名作と戦う(?)のですから疲労困憊しました。一計を案じて視点を絞り、若さと勢いとユーモア度、シニカル度の高い作品と、二度、三度、読み返しました。
私の選んだ一位の作品にはイジワル度の高い、面白い句がありました。二位には、プライドと辛抱切れが面白く詠まれていました。三位は、決意表明が良かったです。四位は、漢字のつくりから発想して詠まれていた句が、確かにそうだと感心しました。五位は、救急車で運ばれるところから退院までの泣き笑いの滑稽に同情しました。

 
総評「可笑しい≠フ発見」
滑稽俳句協会会長  八木 健

広辞苑で「俳句」を引くと、第一義に「滑稽な句」と解説されている。本阿弥書店発行の月刊誌「俳壇」で「滑稽俳壇」の選者を十七年担当しているが、心臓がパクパクするほどの句に出会えると嬉しくなる。今回の選考でも度々パクパクした。
万物にある喜怒哀楽の諸相に可笑しい≠発見し、それを文芸として記す。更に自分の楽しみのみならず、句を発表して共感し合う。研鑚し合う。こんなに楽しいことは他にはない。だから過去に大賞を取った人が何度も挑戦してくる。所属も経歴も一切不問。第十一回滑稽俳句大賞に向けて今から秘策を練って欲しい。