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これまでの滑稽俳句大賞受賞作品
第一回 第ニ回 第三回 第四回 第五回 第六回 第七回 第八回
第九回 第十回 第十一回
第七回滑稽俳句大賞
 
愛媛県 日根野聖子
春炬燵足から抜けし思考力
綺麗ごとばかりをしやべり春日傘
美人台無し解剖学の春の昼
持ち重りする甘夏と正義感
甘つたるき歌のべたつく残暑かな
易々と正義かざすな鵙高音
引つ込めてばかりの道理鰯雲
焼唐黍ポップコーンじや馬鹿になる
非正規てふ格差の国の勤労感謝日
万難を排して何もせず小春




受賞の感想
 文学は、読者に理解を委ねるものですが、文字数の少ない俳句は、その依存度が最も高くなります。「説明」を嫌う文学ですから、同じ五七五音字の川柳よりも、その割合は高くなります。 自分の意図の通りに解釈されて嬉しかったり、逆に全く理解されずにがっかりしたりということは、誰もが経験しているところでしょう。 いかに、言いたいことをうまく表現でき、うまく伝えられるか。発信と受信がピタリと決まり、五七五に込められた意味や情景など、謂わんとするところを確実に受け取っていただけたときの嬉しさは格別です。 誰に評価されずとも、自分の言いたいことを言い、使いたい言葉を使うんだ、という思いで俳句を作ってはいますが、賞をいただけるということは、やはり無条件にこの上ない喜びです。

 
東京都 加川すすむ
国宝はさておき土産花の古都
天に尻向けてザクザク汐干狩
枝豆やまさに父似の指づかひ
美しき嘘も浮かべてレモンティー
鉄人と呼ばれ風邪とも言ひ出せず
躓きし石に罪着せ懐手
付くうちが華てふ寝ぐせ冬木立
肩書の主夫堂々と葱を下げ
名前負け笑ふ親子の炬燵かな
少子化の秘策も練つて日向ぼこ




受賞の感想
 軽い気持ちで投句した私の作品が、今回次点に選ばれるとは思ってもいなかったので、誠に嬉しい限りです。以前(平成二十一年)に、友人の勧めで初めて滑稽俳句大賞に応募し、「袴からブーツ覗かせ卒業す」が入選。賞品として砥部焼の招き猫の置物を頂いた時にも増して大きな喜びです。  普段は地域の超結社の俳句サークルに所属して、いわゆるオーソドックスな俳句を作っておりますが、着想や表現ではベテラン勢には敵わないので、時折滑稽俳句≠混ぜてユニークさを出し愉しんでおります。若い頃文芸川柳を齧っていたこともあり、単なる駄洒落や言葉遊びでなく、心に響く滑稽俳句にこれからも挑戦していきたいと思っています。

 
長野県 横山喜三郎
世界中虚飾に満ちてクリスマス
父の日の話題は母へ母へ向く
名があれば名折れもありて信長忌
怪談を逃げては寄りてキャンプの夜
駄馬の意地喝采よんで草競馬
水鉄砲こどもの顔で応戦す
掬ひきてはたと金魚を持て余す
向日葵の笑ひ疲れを癒す真夜
竹槍も展示されをり終戦日
ファッションにかまけてをりぬ案山子どち




受賞の感想
 「まさかとふ坂を登りて春爛漫」
 定年退職後、何かに打ち込みたいと思っていましたが、どれも長続きせず、十年後、七十歳の時にたどり着いたのが俳句です。俳句は妻が若いときからやっていて、それまで勧められ続けていました。しかし、私には一番縁遠い分野で頑なに断っていましたが、とうとう落ちてしまったのです。俳句を始めて間もなく、書店の立ち読みで俳句雑誌「俳壇」の滑稽俳句(当時は万愚節)を見たのが「運のつき?」。俳句にも、こんな面白い世界があるんだと思うと、俳句全体に興味がわいてきました。滑稽俳句は私の余生に希望と夢をもたせてくれた大きな契機となりました。八木先生と、絶えず刺激を与えて下さっている皆様に感謝しながら、これからも頑張っていきたいと思っています。

 
埼玉県 赤瀬川至安
胃カメラはまつぴら御免三鬼の忌
野遊びの胸の揺るるを眩しめる
法師蝉ツクツクホーで終はりけり
見るだけと言つてゐた筈秋の服
螻蛄鳴くや捜査一課は殺人課
どう見てもおつかない人衣被
淋しさに妻のショールを巻きにけり
煮凝や訳のわからぬヘブライ語
セーターに出口は四つ大欠伸
歳の市目立たぬやうに春画あり


 
北海道 網谷千代子
まつ先に校長先生風邪をひく
軒氷柱透けゐる顔も更年期
水洟の子を見て一日嬉しかり
雪積もり積もり血圧高くなる
命の灯揺らぐダイヤモンドダスト
たまさかの冬日を浴びて転びたる
波の花塊なれば白からず
吹雪三日犬の鼾を聞いてゐる
包丁を研げば流氷哭きにけり
着ぶくれて許す許して許さざる


 
三重県 小林英昭
ストールに笑ひ声までかへるママ
小春日はいりませんかと行商女
穿きながらパンツ乾かす神の留守
茶箪笥に折られて鶴は冬を越す
こたつ猫もふよからうと回顧録
寝技にて一本勝の七五三
大根の味よきけふの幕の内
美辞麗句沁みついてゐる金屏風
うちの嫁雪女かも風呂嫌ひ
浮いてゐる柚子におませなのがひとつ


 
茨城県 ぽん太
雀の子そこのけそこのけ戦車が来るぞ
見ゆるものなべて朧に付け睫毛
まさかとは思いつサマージャンボ買う
本はイザ図書館という避暑通い
おしっこの降るばかりなり蝉時雨
土俵入りかと見し妻のフラダンス
すっと来て松茸を買う客を見た
着ぶくれて食前食後また薬
大寒波諭吉は旅に出たっきり
マスクして小さな嘘をついてみる


 
三重県 西をさむ
新町の女泣かせて夕霧忌
検屍にも一日のずれ西行忌
小町忌やむかし小女の同窓会
北斎忌世界遺産に登りつめ
凡庸な男に生まれ業平忌
幽霊に足の有る無し応挙の忌
好色の代々つづく西鶴忌
猫に鈴付けて晩学宣長忌
達磨忌の壁に向かつて立たされて
うちにかて意地はあるねん近松忌


 
東京都 山本賜
大根もつエコバッグには競走馬
欲しさうな顔に自然薯いただきぬ
蕗の薹少しずれてゐる井戸の蓋
人生に落し穴あり双六も
初鏡純白液は使ひかけ
夫につづけ妻の腰痛十二月
そこまでの花見にあれもこれも持ち
マスク外せばパンの匂ふ駅ビル
天井に映るわたくしクリスマス
風邪に寝てマンハッタンをさ迷ひぬ


 
審査方法と結果

十句を一組とし、一組を一作品として、十句すべての出来栄で評価、審査を行いました。応募者総数八十六名、百組すべての作品を、無記名で各審査員にお渡しし、審査いただきました。一位から五位までを選出いただき、一位は五点、二位は四点、三位は三点、二位は二点、五位は一点として、集計しました。

その結果、以下の各氏が受賞されました。
最高得点の十一点で大賞を獲得したのは、日根野聖子でした。

次点は、
七点の加川すすむと、横山喜三郎です。

入選は、
六点…ぽん太
五点…赤瀬川至安、網谷千代子、小林英昭C、西をさむ、山本賜
四点…笠政人、海野兼夫、福士謙二、下嶋四万歩、小林英昭@、
    金山敦観
三点…久我正明@、橋本正幸、小助川雅人、小林英昭A
二点…藤堂夏生、司ぼたん、梅岡菊子、桝野雅憲
一点…諸星千綾、川口聡美、大澤酒仙奴、佐藤志乃、久我正明A

 
審査経過と講評
「本当のことと本人の大真面目」
俳人 池田澄子

優劣を付けるのがとても大変で辛い思いをしました。

一位の方、わざわざ滑稽に詠んでいないところが魅力。例えば特に「マスク外せばパンの匂ふ駅ビル」、ややリズムが悪いですが現代の誰もが気が付いていて、しかし俳句にしようとは思い付かなかったところをびしっと。「天井に映るわたくしクリスマス」「風邪に寝てマンハッタンをさ迷ひぬ」もそう感じました。

二位、「父の日の話題は母へ母へ向く」の気の毒な男親。「怪談を逃げては寄りてキャンプの夜」、「父の日」の認識よりは平凡ですが可愛い可笑しさ。「竹槍も展示されをり終戦日」の、おそらく本気。

三位、「大凧のひきずってゐる五十人」の「大凧を」ではなく「の」であることの愉快。

四位、「万難を排して何もせず小春」の貫録。「綺麗ごとばかりをしゃべり春日傘」の皮肉、あるいは自嘲。

五位、「初電話昨日の話の続きから」の意外性と真実味。「大文字子ども一人に隠されて」は言われてみれば実景としてありそうであると気付かされた。本当のこと、個人の大真面目こそが、他者には滑稽に思えるようです。

 
「さらなる発展を」
俳人協会「俳句文学館」編集長  上谷昌憲

 言葉遊びから発想した句、しゃれに終始した句、テーマ性にこだわった句など、今回も様々な滑稽俳句が寄せられた。そして、どの応募作からも創造性が感じられ、拝見していて非常に愉しかった。
私が推した作品は、頭の中で練り上げたものより、実際の体験に基づいたと思われるリアリティーと、笑いの奥の哀しみが感じられる作品であった。
滑稽俳句が今後どのようなベクトルで発展していくか、大いなる期待を持っている。

 
「新機軸を求めて」
前愛媛大学学長  小松正幸

 どれにも捨てがたい句がぎっしり。例年のようにウンウンいって選んで見ると、いつもと同じ傾向の作品であることに気がつく。例年こうして審査表を送ってから、大賞の発表をみると、作品の主はやは
り賞のご常連、毎月の特選句のご常連でもあり、老練の達人たちであることを発見する。協会が推奨(?)する優れた滑稽句とはどういう句か、私などにも自然に染み込んで来た。しかし、不遜にも思う、油断禁物、裏を返せば定着は停滞でもある、と。そういうわけで、今回は新機軸を求めて選び直す。一位に選んだ作品は一茶のオホーツク版、とくにダイヤモンドダストの句、厳冬の北国では命の灯でさえある薄日に、きらびやかに舞うダイヤモンドダスト、この対比がおかしい。「雪五尺」を彷彿とさせる北国ならではの居直り(?)が面白い。

 
「十句をそろえる難しさ」
結社「春耕」編集長  蟇目良雨

トータルで十句が揃うのは難しそうだった。

その中で一位の作品は有名人の忌日をパロディをもって詠い切った素晴らしさがあった。巻頭に置かれた句は即き過ぎだったが、「検視にも一日のずれ西行忌」。二月十六日に亡くなったはずなのに二月十五日を忌日に定めた不思議さを「検視」という用語で炙り出している。「好色の代々つづく西鶴忌」も現代に?がる面白さがある。「猫に鈴付けて晩学宣長忌」は「鈴屋」を思い出させる仕掛けが巧みで作者の自画像になっている。

二位の作品は、物をよく見て作っていると思った。「裏口のおぼろになりぬ卒業式」。現実のおぼろと、もしかしたら裏口入学をしたこと忘れ去ろうともがく作者をパロディにしているのではないか。「向日葵や首の疲れしものもゐて」。向日葵をよく見ている。

三位の「雀の子そこのけそこのけ戦車が来るぞ」には現代の右傾化への不安が暗示されている。「大寒波諭吉は旅に出たつきり」。一万円札が出払って寒さに震えている作者が見える。

四位の作品にある男のペーソスを買った。「少子化の秘策も練つて日向ぼこ」には何やらいやらしい中年が描かれているが、政治家が心を広くしてこんな秘策を採りいれてほしいものだ。

五位は認知症の両親を介護されている作者の限界生活がにじみ出ていて貴重と思った。勿論俳諧味を優先した。

 
「魅力的で面白くて」
俳人・女優  冨士眞奈美

 十句一組、百組の作品を拝読しました。計千句です。四、五回通読致しまして、「胃カメラ…」の作品が優れて魅力的だと思いました。胃ガンで亡くなった三鬼の忌、そして「恐るべき君等の乳房…」と連想が広がりました。「どう見てもおっかない人衣被」には楽しく笑わせていただきました。

二位は、「非正規てふ格差の国の勤労感謝日」など、パンチのある句があり、素晴しいです。

三位の〆の十句目「名月やこんな団子じや悪いわね」。この句は面白い。見逃すわけにはゆきませんでした。

四位、一句目と二句目の展開に思わずぐっときました。「土俵入りかと見し妻のフラダンス」には大笑い。

五位の作者は女性でしょうか。無季自由律に大いに迷いましたが、訴えるものが強く魅力があり、異色の作として選ばせていただきました。

 
「安心して味わえるおかしさ」
本阿弥書店社長  本阿弥秀雄

 十句すべての出来栄えを意識すると、一、二句突出した作品があってもその応募作を上位に選び出すことが難しい。残念だが仕方がない。

一位に推す作品は殆どの句が水準を上回り、いわば安心しておかしさを味わうことができた。奇抜な措辞を衒うこともなく、何より季語が確かと思う。

二位は「こつけいはいくしゆう」という文字を一文字ずつ各句の頭に置くという巧みな工夫に作者の力量を知った。

 
総評「作者に会いたくなる作品」
滑稽俳句協会会長  八木 健

 「可笑しい」を共感できる作品が選ばれたことを喜んでいる。二年後に、滑稽俳句協会報一号から百号までと、滑稽俳句大賞の受賞作品を一冊にまとめたい。滑稽俳句作品は後世に残る。俳句は言葉のスナップ写真だが、その一枚の写真から読みとる事ができるのは「作者の人間性」である。世の中の俳句は大方が単なる風景描写で、作者に会ってみたいと思わせる作品は少ない。
 今回、会ってみたいと思わせた句を五七五で評するならば、大賞受賞の日根野氏の「万難を排して何もせず小春」には「小春てふ季語ほめそやす一句とも」。
  次点の加川氏の「少子化の秘策も練つて日向ぼこ」には「何もせず日向ぼこりの口達者」。
  横山氏の「駄馬の意地喝采呼んで草競馬」には「負け犬の判官贔屓ジャパニーズ」。

今から、第八回の応募作品が愉しみでならぬ。