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これまでの滑稽俳句大賞受賞作品
第一回 第ニ回 第三回 第四回 第五回 第六回 第七回 第八回
第九回 第十回 第十一回
第九回滑稽俳句大賞
 
三重県 小林英昭
生ハムの色して春がやつてくる
さへづりや嗚呼モンスターペアレンツ
ワシコフはカラシニコフで柘榴撃つ
まだできぬお玉杓子のじやんけんぽん
春の猫すこし小ずるいのがカポネ
ポケットに陽炎入れてくる少年
大空はやはりいいぞといかのぼり
窓際に買ひ与へたるシクラメン
帰る子にいやいやをする鞦韆
鳥雲にやめる気のないホームレス




受賞の感想
 俳句(ほとんど滑稽俳句)を詠むのは、吟行派でもなく机上派でもなく布団の中派。目覚めて起床するまでの一〜二時間が勝負。布団から出した手に歳時記を持ち、季語に沿って作っていく。始めから五七五で整っていればそのままメモ。整っていなくても、言葉や気持ちあるいは感ずることなどをメモ。そして起床。毎日が日曜日なので、気分の乗ったところでパソコンに向かう。メモに沿って句を五七五に整えながら入力。十句、多い時は百句以上詠む。三百ほどたまったところで短冊に切る。そしてここからが楽しいひと時。「選は創作」はどこかで聞いた言葉ですが、これが楽しい。上澄み句を掬い上げながら純度を高める。二回目三回目さらには四回目まで行う。あとには捨てた句の山が死屍累々。捨てがたくストックしてある句も沢山。出句する時はこれをもう一度推敲。そして大賞に選んでいただいたのがこの度の十句。有難うございました。

 
山口県 吉浦百合子
口ずさむ恋唄があり去年今年
ほめられて椿大きく開きけり
ランドセル山積にして野に遊ぶ
春の風笑顔の種をまいていく
二の腕のくすくす笑ふ更衣
身ぎれいに生きて八十百合の花
どこにでも財布置くくせ合歓の花
芋虫の堂堂よぎる遊歩道
今日と云ふ日の色を足す柿紅葉
産声の響きわたりて冬銀河




受賞の感想
 この度は、思いがけない賞の報に驚きますと共に、ありがたく光栄に存じます。選者の先生方、本当にありがとうございました。
 昨年、山口県で八木健先生のご講演があり、その時の資料を拝見していたのと、結社誌で滑稽俳句大賞の募集を知ったことから、思いきって挑戦しました。俳句歴は十五年ほどになりますが、滑稽俳句の投句は初めてですので、自分の作品が滑稽俳句かどうか自信がなく不安もありました。 
難しい俳句は分からないのですが、とにかく俳句を詠むのが好きで、暇さえあれば俳句をつくっています。八木健先生の滑稽俳句集を拝見させていただくと、ふっと笑ってしまって楽しくて心豊かになります。これからの滑稽俳句人生を豊かなものにしたいと思います。

 
埼玉県 稲葉純子
春立ちぬ景色のうつらうつらして
上書き保存バレンタインの恋心
しやぼん玉色即是空の形して
インターフォンの声の大きく夏来る
十二単や嫁ぎ行く筍は
稲光心の闇を暴かれる
俎板の音のせかせか日短し
情報の重ね着を脱ぎ文化の日
庭の草ひれ伏させる冬将軍
七癖のひとつ七種粥に入れ




受賞の感想
 この度は、滑稽俳句大賞・次点のお知らせを頂きまして、本当にありがとうございました。望外の喜びを味わっております。
 入会してまだ一年二ヶ月、八木会長の信念と滑稽俳句への魅力に導かれ句作りにも目覚め、句歴の長短を論じるより、句作動機の深浅をその作品が腸の厚いところから出ているかどうかまで自身を追いつめることが原点であるという山本健吉の考えに今、少しずつ気付かされているところです。
ともすれば滑稽の俳句は一歩を誤れば卑俗や理屈、嫌味になること、それを踏まえた上で、俳句十七文字にこの世の全ての句材に五感を働かせ擬人化と逆転の発想で試み、自身の心に常に新風を取り入れる姿勢を怠ることなく、更に精進を続けてまいります。

 
群馬県 武藤洋一
懐炉にも好みありけり腹派背派
いかのぼり候補者もまた風次第
ばあちやんになりたきと女児日向ぼこ
露天湯に漬かりてもなほ冬帽子
尉鶲鳥の社会も高齢化
鶯の来るまじなひに法華経読む
小春日や作り笑顔に眉間皺
花満開政治の力借りずとも
書初に清貧と書く落選者
柚子湯柚子湯子の尻取りのきりもなし




受賞の感想
 初投稿、初受賞に驚いています。ありがとうございました。俳句を始めて十五年。師である大串章俳人協会会長は、俳句の三本柱について、写生、叙情、滑稽を挙げていますが、このうちの滑稽が一番難しいと感じています。笑いを意識しすぎると、わざとらしくなってしまうし、何より品がなくなる危険があるからです。
句会で「花見には紋付で行く元村議」というのを出したことがありましたが、結果は、芳しくありませんでした。実話なのですが、広がりも奥行きもなかったと反省しています。
川柳には川柳の魅力と奥の深さがあることは承知していますが、有季定型と切れなど、決まりごとの多い俳句。その三本柱のうち、滑稽を意識して句作を続けるつもりです。

 
神奈川県 神谷章夫
涅槃図をみる人誰も嘆かざる
西行の忌ですと言つて有休す
鶏の座を栄螺が奪ひ江ノ島丼
蜷歩む駆け込み寺をゆつくりと
蟇腹筋すこし鍛へねば
六十年生きてががんぼほどの影
注文をすぐ取る女将走り蕎麦
万歳を三唱すれば一葉落つ
ゐのこづち付けて祝辞に間に合へり
大寒のいちご大福にも及び


 
愛知県 城山憲三
馴れ初めの俤(おもかげ)遠し花すみれ
水ぬるむ政人(まつりごとびと)箍(たが)ゆるむ
胸元の思ひのほかや春セーター
蝶一頭象一頭に戯れり
時々は頷きたくも扇風機
出目金にぷいと踵(きびす)を返されて
いつしかに逃げ出しをりぬ竹夫人
代り映えせぬなり汝のサングラス
神の留守ひそかにネイルアートかな
今さらに後ろ鏡や木の葉髪


 
京都府 田久保ゆかり
まず猫の長寿を祈る初日の出
左義長を母は施設で指図する
木屋町や日本語少し花筏
薫風や定期検査の帰り道
ピロリ菌殺す決心さくらんぼ
連休やひこにゃんを観る群れとなり
ひまわりや母に似てくる笑い方
アイフォンにはみ出て長し夏の猫
良き人であろうと求む栗饅頭
欄干に人紅く萌え東福寺


 
神奈川県 松井まさし
陽炎を呑み込み咽せる観覧車
密会に蜜豆の具材多すぎる
逃水に老人杖をふり回す
まくなぎに慕われ棒立の看護師
まくなぎを引き受けたのに疎まれる
竹夫人昔の名前で出ています
とうぜんのように向日葵に化けている
遺影撮る際はひまわりにつかまつて
あいびきのいきなり今川焼出され
室の花に幼児の密偵隠れ居る


 
審査方法と結果

 十句を一組とし、一組を一作品として、十句すべての出来栄で評価、審査を行いました。応募者総数九十八名、百五組すべての作品を、無記名で各審査員にお渡しし、ご審査いただきました。一位から五位までを選出いただき、一位は五点、二位は四点、三位は三点、二位は二点、五位は一点として、集計しました。


その結果、以下の各氏が受賞されました。最高得点の十二点で大賞を獲得したのは、小林英昭でした。小林は、第五回滑稽俳句大賞も受賞しており、今回、二回目の大賞受賞となりました。次点は、十点の吉浦百合子、六点の稲葉純子と武藤洋一です。入選は、五点の神谷章夫、城山憲三、田久保ゆかり、松井まさし、でした。


四点…中尾公彦、久松久子、日根野聖子、三宅あき子、村上ヤチ代、八塚一、山本賜
三点…久我正明、飛田正勝、浜岡紀子、南とんぼ
二点…加川すすむ、田敏男、床井和夫、柳紅生
一点…佐藤あずさ、多田檀、藤堂夏生

 
審査経過と講評
「滑稽の深さ」
「軸」主宰・全国俳誌協会会長 秋尾敏

全般的に予想より落ち着いた応募作が多く、徐々に協会の趣旨や意図が浸透してきているのではないかと思いました。
 選考は、まず感慨の湧かない作をはずし、次に明らかに川柳だろうという句の多い候補をはずし、残ったものを、滑稽の深さという観点から並べ替えました。一位の句は、滑稽俳句としての深さがあり、他者を詠んでいても他人事になっていない風格のある句や、滑稽の質の高い句のあるものを選びました。
 発想は川柳的でも俳句の形をもっているか、類型性はどうかなど、それぞれ作品の質も違うが、良いところを持った作品を上位に選びました。

 
「言いたいことは我慢」
俳人 池田澄子

  面白いでしょ、滑稽でしょと、読者に無理強いしていないものを選びました。上位五作品に大きな差はありません。
 作者自身が、ここが可笑しいと面白がった部分は、読者はもう面白く思わないのが不思議です。一番言いたいことは、作者は我慢して言わない、ということが大切のようです。自戒をこめてです。

 
「滑稽俳句とは」
俳人協会「俳句文学館」編集長  上谷昌憲

 いかなる滑稽俳句でも、俳句と名がつく以上は、有季定型のジャンルに入る文芸といえよう。今回の応募作品は、概ねその条件を充たしていたように思う。しかし、相変わらず、駄洒落に終始した作品も多かった。駄洒落が悪いという意味ではない。そこにヤラレタ!と思わせる言葉の洗練があるかどうか、さらに言えば、そこに詩を感じさせるかどうか。自戒を込めての感想である。

 
「奇を衒うことなく挑戦を」
「山彦」主宰・山口県俳句作家協会会長 河村正浩

 一位に選んだ句は十句が平準化しており、奇を衒うこともなく、季語にも無理が無く安心して読めた。二位の作品は、うまく時事を捉え、インパクトがあった。三位は、風刺的な発想に思わずニヤリ。四位は思わず笑いを誘われ、五位はユーモアの中にも心に響くものがあったものを選んだ。
さて、選をしながら滑稽とは何か改めて考えさせられた。滑稽は必ずしも笑いを伴うものだけではない。日常、非日常の中で遭遇した衝撃(変化、驚き)を伴っている。ましてや俳句なら。その上で、私はアイロニー、ユーモア、そしてペーソスの感じられる句が好きである。

 
「粒ぞろいの十句」
結社「春耕」編集長  蟇目良雨

 一位の十句は、粒ぞろいで他を大きく引き離した出来映えであった。「生ハムの色して春がやつてくる」。春の曙がハムの色のように見えて愉しい作品になった。類想が無い。「ワシコフはカラシニコフで柘榴撃つ」。三鬼の句のもじりと知りつつも迫力を感じる。「春の猫すこし小ずるいのがカポネ」。最近は、飼い猫の種類も増え、毛むくじゃらのものも多い。そんな猫にはカポネと名付けたくもなるだろう。猫を見分けての観察の勝 利。

 
「一〇五の手練れ作品群」
俳人・女優  冨士眞奈美

 百枚を超す、十句ずつの句群。しかも、その一〇五人の方達が皆さん手練れですから、選句は大変でした。一位に戴いた方は、感覚が若々しく、全体的に生き生きとしていらした。魅力ある作家です。上位の作品は、古典を読むような迫力のあるもの、いい人で終る哀しさを詠んだもの、子規の横顔を渋柿に例えた視点の面白いものなどを戴きました。

 
総評「無理なく可笑しいが良い」
滑稽俳句協会会長  八木 健

 「滑稽俳句」の定義があるとすれば、「面白い」よりも、「可笑しい」の方が近いだろう。しかし、何を可笑しいと感じるかは、文化的背景や知的関心など、人によって千差万別である。従って、選者全員から笑いの共感を得ることは至難の業である。ある選者には可笑しくとも、別の選者にはそれほどでないことも、当然あるからである。そういう点でも、滑稽俳句大賞は、俳句の賞の中でも、最も難しい賞と言える。大賞を得た小林さんの作品は、非常に個性的である。「生ハムの色して春がやつてくる」。これは小林さんの直観である。読者は一瞬、えっどうしてと訝り、次の瞬間なるほどと納得する。可笑しさがじんわりとやってくる。上位の作品は、可笑しい情景を無理なく素直に描き、滑稽を見つける技量のほどを感じさせる作品であった。