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これまでの滑稽俳句大賞受賞作品
第一回 第ニ回 第三回 第四回 第五回 第六回 第七回 第八回
第九回 第十回 第十一回
第五回滑稽俳句大賞
 
三重県 小林英昭

好きといふかはりに強くこぐ鞦韆
つくしんぼばかりのならぶ通信簿
寄居虫のたがひに新居自慢かな
すみずみに法話とどける扇風機
遠雷やすつかり丸くなりし父
ぬけぬけと晴れてしまひぬ秋の空
知つてゐてそこでまた泣く村芝居
りんごもぎデニムの尻でみがき呉る
闇汁のあとにださるる胃腸薬
歳晩の象ゐる園の広さかな





受賞の感想
 三度目の正直も過ぎ、大賞応募はこれで四回目。そこで、なぜ落選したか過去応募した自句を振りかえって自分なりの分析をこころみてみた。で、得た結論は、過去の応募句の多くが滑稽であることに走り過ぎていて、肝心の俳句としてのレベルが合格点に達していなかったと言うことである。
 滑稽句は、滑稽である前に、「俳句」でなければならないというごくあたり前の結論に行きついたのである。俳句としての「いい」「まずい」がまずあっての滑稽なのである。ま、そんなことを踏まえながらの今回の応募であったが、幸い大賞に選んでいただき、誠にありがとうございます。
 今後とも、ますます精進を重ね、命の限り?あるまで滑稽句を詠んでいきたいと思います。

 
兵庫県 岩神刻舟

ほとんどは身振りの英語水温む
殺されてまた殺されて春のあくび
貼り紙に貼り紙禁止春うらら
ままごとのパパ役がポチ風かをる
香水や背筋をのばす工夫たち
ロボットに人は似てきてそぞろ寒
薄命と言へぬ妻あり冬ぬくし
玉子酒飲まされ掃除言ひつかる
葬のくさめ嗚咽のごとくこらへたる
喰積や妻は地球の裏を旅





受賞の感想
 ただただ、びっくりです。選んで頂いて有難うございます。俳句を始めて十年弱、今まで作った内から応募しましたが、意外にも滑稽な句が少ないのに気付きました。俳句は滑稽が当たり前なんですが、つい忘れて今風の俳句を作ろうとしてしまいます。そんな時に、「夏大根辛くて妻を一瞥す(皆川白蛇)」や、「佐渡ヶ島ほどに布団を離しけり(櫂未知子)」。こんな一読、吹き出してしまう句を思い出しては滑稽の大切さを再認識しています。「可笑しい」と言うのはどこか悲しく「悲しい」と言うのはどこか可笑しいものですね。そんな俳句の精神を忘れないようにこれからも句作に励むつもりです。

 
三重県 田村米生

ポケットの大き服着て林檎狩
富有柿食べて大穴狙ひけり
レモン搾るあの人の手を抓るごと
白桃の尻見比べて買ひにけり
卓上につんとすましてラ・フランス
金かじるやうに金柑かじりけり
顔の皺口に集めて葡萄吸ふ
お手玉は婆の十八番や青蜜柑
実柘榴と噛み合つてゐる八重歯かな
不器量の柚子の貰ひ手さがしをり





受賞の感想
 平成二十一年六月に滑稽俳句協会に入会して、初めて第五回滑稽俳句大賞に、恐る恐る応募した作品が次点に採り上げられましたことは、競馬で大穴を当てた以上の嬉しさです。苦しみ踠いてひねり出した作品だけに、やったぁーという喜びになりました。現在は、某結社と滑稽俳句協会とに二股をかけておりますが、私はもう滑稽俳句から逃れることができません。結社への月々の投句も、人を呆気にとらせることと笑わせることを常に考え、駄句を送り続けています。ですから、結社の句会では、田村の句だと見破られることがたびたびあり、笑いの種が蒔けたと一人悦に入っております。このたびの次点賞受賞は、エンディングノートに書き置く財産となりました。

 
大阪府 柊ひろこ

猫の恋死ぬの生きるの引つかくの
雲呑の胃の腑に浮かぶ春うれひ
炎帝に髪の数まで算へられ
貧毛類ももいろみみず鳴きにけり
親の糞つけて可愛や寒卵
ぴよぴよと遠足が行くついてゆく
なめくぢの自由生活二億年
涼しかろいのち竟(を)へたる乾電池
文弱にして秋の蚊の餌食なり
寒夕焼夫が泣くので帰るなり





受賞の感想
 思いがけないお知らせに、今も驚いております。何より、《小林英昭さま大賞・私次点》という並びがうれしいです。こんなことってあるんですね。小林さまとは、月一回、名古屋句会(私は大阪から欠席投句)で御一緒させていただいており、敬愛する大切な先輩なのです。本当にうれしいです。
 先日、俳句とは無縁の友人から「滑稽俳句って何?」と聞かれてしまい、「えーと、俳句の笑いはね…、川柳の笑いはね…」と説明するうちしどろもどろになり、思わず「チャップリンの映画みたいなものよ!」と言い放ってしまいました。友人は即座に「わかった!すご~い!」と言ってくれましたが、これでよかったのか、今も悩んでいます。

 
兵庫県 橋本吉博

茶柱の福を拝んで昼寝かな
下ろす足下ろしそこねて蟻の道
表には見せぬ布団の裏模様
砂浜もビーチと呼んで夏支度
大木を抱へて蝉の七日鳴き
ふるさとの訛りで解く盆一夜
細縄にラインダンスの目刺しかな
時落つるスローモーション桐一葉
風邪ひとつ引かぬ頑固の薄着かな
つい人の噂がたまる日向ぼこ



 
東京都 麻生やよひ

結び目のゆるき風呂敷久女の忌
和歌記す文字の唐様実朝忌
裏切りも身から出たさび信長忌
知らぬ間に碧眼の孫鴎外忌
初恋てふ独りよがりよ藤村忌
歌麿忌八頭身とはしやらくせえ
物憂げな女胴長夢二の忌
足抜けの出来ぬ句の道獺祭忌
菊坂に恋も実らず一葉忌
坊ちゃんは敬語にあらず漱石忌



 
愛媛県 日根野聖子

春埃人差し指が触れたがり
お嬢さんと売子に呼ばれ春うらら 
反骨も気骨も軟骨終戦日      
一線を越えるか画すか西鶴忌     
新じゃがのこことここにも笑くぼかな 
両手足分解運動会の二人三脚
斬首てふ刑の確定青首大根    
壊したいものの代わりに落葉踏む  
裸木の二本地球の角(つの)となる
てつぺんの聖樹の星といふ憂鬱



 
東京都 石倉俊紀

七日粥欲しがる犬のふて寝かな
春の猫エスカレーター下り行く
昼寝せり看取られる夢見て覚める
神田川蚊柱避ける四歩半
ひんがしへやんまが抜ける大広間
長廊下脚高蜘蛛が脚を組む
天高しやるべきことは洗と濯
傘さして唯見つめ居り今年酒
残業帰りイヴの男女は仇なり
除夜の鐘撞くとて並ぶ二百人




 
愛媛県 久我正明

座禅から乱闘になる歌留多取り
とぼとぼと帰るのもまた猫の恋
いつまでも過去を引きずり蛞蝓
包帯を解くやうに桃剥ぎにけり
端居して笠智衆になりにけり
光源氏黒髪を踏む夜長かな
富士山の噴火するらし木の実落つ
茶柱のどうしても寝る敬老日
骨折を隠す竜馬の懐手
ひそひそと墓のことなど冬仕度



 
福岡県 白井道義

初糶の鮪一億五千万
紅白のどちら勝っても年明ける
取り敢へず禁酒封印卵酒
年玉の投資いつかは取り戻す
飼猫を抱いて暖取る寒の入り
河豚鍋に奉行一切手を出さず
無届けの外泊三日恋の猫
音楽の苦手な息子草の笛
直感に頼るほかなし西瓜買ふ
三猿を三日で破る生身魂



 
東京都 土生洋子

半年も閉店セール蚯蚓鳴く
一葉も諭吉も不在二月尽
宵越しの金を叩いて食う鰻
油照りそれでも並ぶ特売日
極月や遣り繰りしても火の車
絶倫のハタタガミなり夜もすがら
ときめきは遠き思い出尾花蛸
入賞の懸崖いよよ反り返る
水温む含み笑いのプラナリア
ペンダコが脳味噌嗤う夜学かな



 
兵庫県 彦阪義久

京女ねっとりと言ふ「暑おすな~」
正月の誓いのなんと軽きこと
ハンカチを振りし昭和が遠くなる
明らかに一番美人毒茸
夫婦間数式普遍去年今年
町毎に小町居る国女正月
もう元気必要ないが寒卵
マフラーの色だけ猪木に合わせたの
寝正月誰かが箱根を走ってる
テレビ起き妻は寝ている良夜かな



 
審査方法と結果

十句を一組とした作品で審査をするという方法となって、三年目となりました。応募者総数六四名、七〇組すべてを、無記名で各審査員にお渡しし、審査いただきました。一位から五位までを選出いただき、一位は五点、二位は四点、三位は三点、二位は二点、五位は一点として集計しました。

その結果、以下の各氏が受賞されました。
最高得点の十四点で大賞を獲得したのは小林英昭でした。

次点は、
八点の岩神刻舟、七点の田村米生、柊ひろこです。

入選は、
六点…橋本吉博
五点…麻生やよひ、日根野聖子
四点…石倉俊紀、久我正明、白井道義、土生洋子、彦阪義久
三点…粟倉健二、杉崎弘明、山本賜
二点…笠政人、森泉休、八洲忙閑
一点…木本康雄、原田曄、武井怜

 
審査経過と講評
深く入って浅く出る
俳人協会「俳句文学館」編集長  上谷昌憲

 日常ありふれた情景を、ちょっと斜めのアングルで見てみると、途端に面白くなります。さらに季語を上手に機能させると、日本人共通の美意識を無理なく引き出すことができます。作り手が大真面目であればあるほど、その面白さは限りなく普遍性を帯びて伝わってくるのです。

 
人生の滋養と深い味わい
前愛媛大学学長  小松正幸

 今回は応募作品が例年より少なかった分、選りすぐりの佳作が集まったという印象を受けた。それだけに私は選考に大変悩み、時間がかかった。こうして撰んだ後の十四、五の作品の中から、またウンウン唸りながら、最終的に五作品をやっと撰び出した次第で、いずれも甲乙つけがたい優秀作である。私の撰んだ五作品は、いずれも衒いがなく、詠む人の穏やかな人生の滋養と深い味わい、そして人の世のおかしみとペーソスを感じさせる。「好きといふかはりに強くこぐ鞦韆」は、子どもの頃の思い出でしょうか。「遠雷やすつかり丸くなりし父」の句、地震雷火事親父といわれる如く怖かった父も、雷が遠ざかれば怖さも無くなるように、年取ってすっかり丸くなった、それがおかしくもまた哀しくもある。「薄命と言へぬ妻あり冬ぬくし」「喰積や妻は地球
の裏を旅」は、おかしみとあきらめの境地があって面白いですね。全体的に見て、どの作品にも良い句が一つや二つと言わず必ずあって、なかなか棄てがたく切りがたく、反故の中からまた拾い出すなど選考は苦労というのが実感であった。

 
上質な滑稽の一群
結社「春耕」編集長  蟇目良雨

 俳句と名を冠する以上、季語の働きを重要視したい。川柳との違いを意識して作られた作品群として「好きといふかはりに強くこぐ鞦韆」の作品を推した。あからさまに滑稽を狙っていないが、口に出して気持を伝えられない現代人の滑稽さが滲んでいる句。「すみずみに法話とどける扇風機」、扇風機の風に乗って法話が末席まで聞こえてくる面白さ。「りんごもぎデニムの尻でみがき呉る」、明るく健康的なエロス。「尻でみがき呉る」は、滑稽でなくて何であろう。上質な滑稽の一群として楽しませて貰った。

 
知的で品のよいユーモアを
俳人・女優  冨士眞奈美

 知的で品がよいことがユーモアの原点です。熟練の句ばかりで、拝読して楽しませて戴きました。一位に戴いた「猫の恋死ぬの生きるの引つかくの」の十句は秀作です。十句すべてをトータルに審査するのは、とても悩みました。「闇汁会外科医が一人加はりぬ」「低音の裁判官や秋深む」「聞き飽きて籠の馬追い野に返す」などブラックユーモアを知的に駆使して好きでした。「寝正月誰かが箱根を走ってる」「初詣願ひはいともおほざつぱ」「生きてれば又酒飲める柿食える」「重ね着の三、四着が同じもの」。一句だけでも断然魅かれる素晴らしい句があり、選びたい作品がたくさんありました。

 
上品ですっきり
本阿弥書店社長  本阿弥秀雄

 毎回思うのは、滑稽も上品で、すっきりしている方がいい、ということです。それには、面白おかしさを読み手に押し付けるのではなく、読み手に感じ取ってもらうくらいの心構えが必要なのかも知れません。その基準に沿って、多くの候補作の中から上位、五篇を選びました。

 

第五回滑稽俳句大賞総評

「講評の好評となり二月尽」
滑稽俳句協会会長  八木 健

 滑稽句とはどのようなものなのか、大賞募集も五回目となり、応募者の多くは、自分なりの確信をもって作句に臨まれたのではないでしょうか。応募作品はこれまで以上にバラエティーに富み、読み応えがありました。滑稽俳句は、技法として①擬人化②裏切り構成などが挙げられますが、作者の滑稽観や心情を句に借りて表現するものですので、句の中に作者自身の人間性がにじみ出たものを選びました。また、句の可笑しさは「意外性」にあります。それが一句にドラマを生み、句の上では「切れ」となって表現されます。上位二十作品は、「平成の滑稽」として後世に語り継ぐ作品ですね。