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第六回滑稽俳句協会報年間賞決定!
 
東京都 八塚一
真夜中の突貫工事霜柱
 受賞の感想
 協会報年間賞「天」をいただき、身に余る光栄です。ありがとうございます。この句については特に練って作り上げたわけではなく、冗談や軽口を言うようにふと出てきたものです。得てしてそのような句の方が良いものになるというのが俳句、とりわけ滑稽俳句の特徴なのかもしれません。そのために日常の中にある何気ない事柄、風景を少しだけ丁寧に感じてみよう、見てみようという姿勢を忘れないよう心掛けています。
 昔から「明るい詩」が好きでした。ただ残念なことに「明るい詩」は詩の世界全体から見れば少数派です。世の中にもっと明るい詩を嗜好する人が増えれば、きっと世界は明るくなるはず。これからも皆さんと一緒に滑稽俳句を世界に向けて発信していければと思います。
改めてお礼と感謝を申し上げます。今後とも、よろしくお願いいたします。
 
 
愛媛県 堀川明子
鼻の穴ばかり見せられ黄水仙
 受賞の感想
 これが最初に詠んだ句でした。散歩中に一輪の水仙が咲いていて、皆でにおいを嗅いだことを句にしました。何度も読み返し、結果的に、
鼻の穴ばかり見せられ黄水仙
となりました。わざとらしくない擬人化で、水仙の気持ちになった句にできたと思います。
 今回の受賞の知らせを受けて、まず思ったのが「推敲の大切さ」です。句会で先生に添削していただいて、「ああ、なるほど」と感心することが多いのですが、自分で推敲して『成功』したのは、今回が初めてです。
これからも初心者の強みとして、さまざまな表現に挑戦していきたいと思います。受賞の知らせに少々浮き足立っておりますが、躓かないよう、いえ、躓いても立ち上がれるよう日々精進してまいりたいと思います。ありがとうございました。
 
 
長野県 横山喜三郎
入試絵馬ぶつかり合うて春疾風
 受賞の感想
 八十六歳という老齢になり、脳年齢はさらにその先を行き、特に滑稽部門の脳細胞の衰えは止めようもありません。そんな時、この度の受賞となり、まさに「青天の霹靂」。またとないカンフル剤となって、私に活力を与えてくれました。有難うございました。
 滑稽俳句は俳句の原点ともいわれ、理解しやすく、近づきやすい文芸ですが、ともすれば軽くみられがちです。しかし、その奥深さを全身全霊をもって説き、滑稽俳句の正しい発展に努力しておられる八木会長に感謝致しております。
 「おおかみに蛍が一つ付いていた」「一月の川一月の谷の中」「降る雪や明治は遠くなりにけり」。これらはどの歳時記にも載っており、名句中の名句と賞賛されていますが…。私は滑稽俳句の将来に大きな夢と希望をもっております。
 
 
選 評    滑稽俳句協会会長 八木健
「天」…俳句に季語があり、季語を賛美して詠むのは、根源に自然への畏敬の念があるからである。滑稽俳句にも季語はあるが、単なる賛美にとどまらない視点や感性を要求される。天の句は、一夜にして精巧な建造物が出来たことへの驚愕を端的な表現で描き、極めて優れている。

「地」…人間は黄水仙を嗅ぐ。これは黄水仙の立場からすれば何人もの鼻の穴を見せられるということ。句は黄水仙が主役で人間は脇役。しかも人間を「鼻の穴」として登場させているところがなんとも可笑しい。柔らかな感性に脱帽。

「人」…相変わらずの受験競争の激しさ。受験絵馬に代理戦争をさせているところが可笑しい。戦いの激しさは絵馬のぶつかり合いで表現されているが、季語の「春疾風」との取り合わせが何とも巧みである。
 

 

 

平成二十九年八月号〜平成三十年七月号特選句
   
ういてこい一句浮かばぬ前頭葉 南とんぼ
どの人を刺すか迷った蚊が我に 小笠原満喜恵
時の日やいつも確かな腹時計 川島智子
胃カメラを一気呑みする夏真昼 小川飩太
骨休めする暇もなし梅雨の傘 山下正純
将棋指し上下左右に蜻蛉の目  久我正明
カート押し妻の後ゆく羽抜鳥 青木輝子
馬鈴薯のえくぼカレーに埋もれたり 有冨洋二
サングラスかけて態度のでかくなり 村松道夫
うちのことさらされ夏休み絵日記帳 山本 賜
茗荷汁好きでアルツハイマー論 越前春生
遅くなってごめんね田水この位でいいですか 鈴木和枝
迎え火や愛人連れて父帰る 小川飩太
そろばんもトニー谷にも来る残暑 西をさむ
秋めくやマカロニの穴風抜けて 桑田愛子
未練たらしい男のような溽暑かな 南とんぼ
受話器より移りさうなり夏の風邪 田中早苗
右の物左へ移す九月かな 稲沢進一
大差なくみな六十年の干し柿に 石塚柚彩
生身魂老いても押せる横車 青木輝子
色づいて尻でかくなり柿の秋 村松道夫
宝くじ露けき夢に支へられ 柳 紅生
秋天に吊り上げられて象の鼻 新島里子
秋深し隣は孫の来ておりぬ 西をさむ
胸元をひろげ案山子の色仕掛け   小林英昭
干柿の乳房ほどの柔らかさ         井口夏子
顔ぶれにはしごの予感おでん酒   有冨洋二
菊に訊く汝に訓読み何故無きや    伊藤浩睦
白菜の尻を揃へて糶(せ)られをり 越前春生
あちら立てこちら立たずや年の暮 八洲忙閑
鬼よりも卑劣なやから追儺かな 横山喜三郎
通気性良しと言ひ換へ隙間風 堀川明子
白息にからめとられてゐるベンチ 小林英昭
一円か五円か迷う神の留守 鈴鹿洋子
通院の日に二重丸初暦 西をさむ
百段の筈が九十九神の留守 山本 賜
忙し忙しと数へ日の長電話 本門明男
真夜中の突貫工事霜柱 八塚一
師走てふジョギングほどの忙しさ 堀川明子
雪礫憎さいとしさ千個ほど 井口夏子
アナログで生きて行きます冬籠 赤瀬川至安
生きてきたかなめに俳句と塩鮭と 山本 賜
入試絵馬ぶつかり合いて春疾風   横山喜三郎
手袋をはめ不器用な人となる 堀川明子
着膨れて着信音に届かぬ手 井野ひろみ
杉花粉どうして私を苛めるの      梅岡菊子
西成の寒風掟のやうにかな 田中 勇
補聴器の感度良好風邪の声 白井道義
鼻の穴ばかり見せられ黄水仙 堀川明子
井戸端の火種を移し春炬燵      柳 紅生
雛つくる工程雛の首並ぶ        山本 賜
横棒に跨ぎてをりし干大根 青山桂一
「ちょっときて」身構へて出る春炬燵   田村米生
春寒や裸にされるゆで卵 久我正明
鼻の下伸び縮みさせ花粉症         堀川明子
山笑ふツボに嵌つてしまひけり   小川飩太
大陸の言語飛び交う花名所       有冨洋二
風強し春何番か解らない       赤瀬川至安
雪とけて村一ぱいの爺と婆        荒井良明
親の背を見て後継がぬ卒業子       青木輝子
ただならぬこの世を案じ夕端居 吉原瑞雲
風薫る大谷君の二刀流  西をさむ
美人湯にのぼせ上がりて蝶の昼 柳 紅生
人生はひととき花もひととき 泉 宗鶴
そら豆のどれにも黒いチャックかな   日根野聖子
変態の蝌蚪は過渡的なる姿 伊藤浩睦
素足てふ一部ヌードの解放感        堀川明子
ゴールまで横一線や鯉のぼり        白井道義
起し絵の強敵3Dプリンター        高橋きのこ
陶枕も戸惑う君の石頭           八塚一
どくだみを貼つて隠せず臑(すね)の疵 本門明男
事件です動き出したるソフトクリーム 森岡香代子