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第五回滑稽俳句協会報年間賞決定!
 
愛知県 伊藤浩睦
猛暑日や金魚の赤く茹で上がる
 受賞の感想
 この句が協会報年間賞の「天」と聞いた時には、えっ、こんな小ネタでいいのと思いました。気の利いた社会風刺、権威を卑俗に落とす、故実を利用するといったものに比べると、この句は、小ネタで小ボケをやっているだけなのですから受賞は本人がびっくりしています。
 講演などをさせていただく場合には、なるべく笑いを取るようにしていますが、笑いというのは嘲りの要素もあって、知らないうちに誰かを傷つけてしまっている場合もあります。その点ではこの種の小ネタの小ボケは誰かを傷つけることなく笑いが取れます。
 講演などはそれで良いのですが、滑稽俳句となると風雅を卑俗に落とす「犬筑波集」以来の笑いや、故実や古典を利用した伝統芸的な笑いも必要であり、そのような句にも挑んでいきたいと考えています。
 この度は、ありがとうございました。
 
 
神奈川県 下嶋四万歩
ご祝儀を甘噛みしてる獅子頭
 受賞の感想
 昨年にひきつづき年間賞の栄誉に浴し、大変嬉しく思っております。
 滑稽俳句は、やはり面白がらせようとして作るのではなく、そこはかとない可笑しみがあることを旨とすべし、と近頃は思うようになりました。
 従って句作の際の姿勢としては、全身の力を抜き、ひたすら脱力感に浸りながら作ることを心がけるようにしております。
 今回受賞の句も、獅子舞の獅子が、なにやら口に咥えたご祝儀の確かな「口ごたえ」に、甘噛み(喜んで)しているように見えた瞬間を捉えて、ものにした句です。
 二回目の年間賞となると、二度あることは三度あることを信じて(欲の上塗りか)、次なる受賞を狙うという、怪しからぬ考えが雲の峰のようにふつふつと湧き出る始末です。   
謝謝。
 
 
神奈川県 青木輝子
四月馬鹿なによりうまい親の脛
 受賞の感想
 メールボックスに封書を見た時は、何事かと思いましたが、開封して一読いたしまして、驚きと共に嬉しくなりました。
 今年は、俳句を始めて十年になりますが、迷句≠ホかりで少々だれていました。
その上、五月に体調に異変をきたし、沈んでいましたが、思いがけずこの度の吉報に気分が上向きになりました。
 この句は、友人と会話をしていて、友人の漏らした愚痴をヒントにひらめきまして、成した句です。
 丁度、年齢も八十歳。よい記念になります。ありがとうございます。
 選んでいただいたことに、感謝とお礼を申し上げます。
 今後とも、よろしくお願いいたします。
 
 
選 評    滑稽俳句協会会長 八木健
「天」…金魚が赤く茹で上がるとして、「猛暑」がより強調された。インパクトが誇張となり、誇張は「つくりごと」に近くなるが、そのぎりぎりがいい。文芸は、「嘘事」の方が真実より説得力があることも。虚構の中のリアリティーが見事。

「地」…ご祝儀を獅子に甘噛みさせているのは、獅子頭を操る人間である。この句の面白さは「甘噛み」にある。ご祝儀は嬉しい。だから何度も噛んで楽しむ。旨そうに噛む獅子に、人間の心情が上手く表現された。

「人」…親の脛は子に齧らせるためにある。ということが前提の句である。子にとって親の脛は美味である。齧られる親は、いい加減にしてもらいたいと思う反面、子ども可愛さに、つい甘くなる。四月は進学、進級、就職と、人もお金も動く月。そして、親馬鹿の月でもある。
 

 

 

平成二十八年八月号〜平成二十九年七月号特選句
   
夏はほら夏目雅子の野球帽 山本 賜
一樹ごとけふ貸切の蝉しぐれ 小林英昭
黒星を背負ひ気楽な天道虫 麻生やよひ
四十肩とも五十肩とも扇風機 稲葉純子
秋暑しポストの喘ぐ口二つ 氏家頼一
地球一周せむとてでで虫旅立てる 小泉花子
浮いてこい何を恥づかしがつてるの 田村米生
猛暑日や金魚の赤く茹で上がる 伊藤浩睦
綺麗ねと言はれ琉金ひるがへる 山本 賜
同じ血を分けたる仲の藪蚊打つ 柳 紅生
涼しさや人さまざまの不恰好 梅岡菊子
親方の方がちんまり三尺寝 横山喜三郎
枝豆とビールの仲に嫉妬して 花岡直樹
ままごとに妻妾同居赤のまま 小林英昭
産土の神へ賄賂の木守柿 伊藤洋二
凡人に旗日のご利益文化の日 青木輝子
鶏頭を見れば数へる癖が出て 下嶋四万歩
あめんぼう水が苦手で水の上 稲沢進一
隠す爪持たぬに鷹のふりをする 津田このみ
ブルドーザーに裳裾踏まれて立田姫 西をさむ
一本に大がかりなり松手入 山本 賜
遮断機の監禁ほどけ秋の空 稲葉純子
二股の恥じらひ足のだいこ抜く 森岡香代子
彼の世への片道きつぷ彼岸花 本門明男
任せると云つて口出す松手入れ 金澤 健
どんぐりや甲乙丙丁みな仏 田村米生
ご同役には掃かれじと濡れ落葉 都吐夢
密会のための胡桃の部屋リース 小林英昭
貧乏神は半額でよし神の旅 高橋きのこ
鉄砲という悲しみで熊を狩る 八塚一
羽子板は愛でられるより振られたい 八塚一
木洩れ日の行き場無くして枯木立 白井道義
女体めく山の稜線山装ふ 柳 紅生
神々にエゴを聞かせる初詣 岡野 満
御破算に願ひたき世や年の暮 本門明男
干大根灰汁の抜けたる相(かお)となり 久松久子
ご祝儀を甘噛みしてる獅子頭 下嶋四万歩
これしきのことでは済まぬ女正月 加川すすむ
消炭のやうな仲ねとまた燃ゆる 小林英昭
罠の餌盗んで猪の舌鼓 田中早苗
歌留多とり死角の裾を糺しけり 柳 紅生
人は人己は己雪は雪 越前春生
ごみ袋のやうに出されて日向ぼこ 赤瀬川至安
仮の世をこの世とみせて曼珠沙華 稲沢進一
神ってる黄身二つなる寒卵 壽命秀次
自動ドア勝手に開き春来たる 稲葉純子
感情を抑へて閉める障子かな 山本 賜
マスクして鼻の低さを思い知る 小川飩太
嘘寝してことの始終を聞く雛 椋本望生
うちのタマ野良に騙され春の闇 岡野 満
雛納めいやじゃいやじゃを宥(なだ)めつつ 南とんぼ
山笑ふ何が可笑しいのでしょうか 田村米生
リハビリは貧乏ゆすりで日向ぼこ 津田このみ
春一番過労死間近風見鶏 井野ひろみ
春場所に鼻息を聞くインタビュー 壽命秀次
四月馬鹿なによりうまい親の脛 青木輝子
忖度を屁とも思はぬ四月馬鹿 田村米生
春愁や厠のボタンどれがなに 原田 曄
たんぽぽや人逝く処みな同じ 小川飩太
昭和の日企業戦士ははや猫背 柳 紅生
出た腹の分だけ先に夏に入る 小川飩太
夕凪やたるむ海馬に鞭を入れ 加川すすむ
自己紹介は立て板に水ランドセル 壽命秀次
ハハの日のハハに濁点付けてみる 加藤澄子
ゆるやかに肥満をつつみ夏衣 梅岡菊子
衣かえて浮き世の憂を脱ぎ捨てる 西をさむ
備とて水鉄砲と輪護謨(わごむ)銃 原田 曄
蕎麦なれば加計森もよし梅雨に入る 高橋きのこ
一張羅から一張羅更衣 小川飩太
打たれまい蝿の止まりし蝿叩き 氏家頼一
寄せ植えに揺れる役目の小判草 山本 賜
手を洗ふしぐさや蝿のきれい好き 日根野聖子