滑稽俳壇 2023年1号 八木健 選
四月号から「微苦笑俳壇」は、「滑稽俳壇」に名称が変わっています。 ◆滑稽俳壇は今号より二十一年目に入りました! ●特選 渾身の亡びの色や冬紅葉 /柏原才子 冬紅葉を「綺麗だね」なんて褒めるだけでは滑稽俳人としての資質に欠ける。凝視して「亡びの色」と気づくだけでは初級。これ以上濃い色にはなれない「渾身の色」と紅葉になりきれる感性は、最上級の滑稽俳人。 補聴器の耳へ秋声限りなし /曽根新五郎 補聴器を使った人なら誰でも体験する、不愉快な不協和音がある。その音なのか、「秋声」なのか。耳だけで聞けば雑音だが、心で聴けば秋の声である。秋の声を聴いてみたければ、俳人、詩人になることである。 毒きのこ見目麗しく美味さうな / 森 一平 そもそもあらゆる生物の毒は、獲物を捕食するためと自身を防衛するためという目的がある。どちらも種の保存にとって必要なことだが、美しさでひきつけて食べさせておいて攻撃するとは、なんとなく人間臭い。 ●秀逸
スナックで社長と呼ばれ年忘 大学と名付け高値のさつまいも 七五三見えない神に頭垂れ 藪枯らし吾に足らぬはど根性 担当は下足の係文化祭 蟋蟀こおろぎのまだ鳴き足らぬ夜明かな 甘さうな名前で良く売れさくらんぼ たまご酒好きで将来酒豪かも
柳 紅生 北川 新 米田正弘 川口八重子 石川 昇 柳村光寛 築史善正 髙田敏男
筆談の文字を直され文化の日 そうなのか夜食の所為か体脂肪 わが影もよろけてゐたり暮の秋 ファスナーにジャージ噛む癖そぞろ寒 重季語か「加湿器据うる冬支度」 道をしへ何処へ行くかを聞きもせで 文化の日勲章もらう日のことよ 冬の真夜こむら返りの足さすり 渡り鳥ギターを持つてゐるだけか 炭鉱のカナリヤに勤労感謝の日
村越 縁 小田龍聖 松村正之 寺津豪佐 板坂壽一 馬場菊子 白井道義 久松久子 川添弘幸 大渕久幸
自然薯や育つ苦労と掘る苦労 新そばの文字筆勢にでて走る 機械化で句に詠みづらい蓮根掘 吹き方で寒さを誇張虎落笛 回しつつ抜くベテランの大根引
秋暁の耳さまざまの音を聴く 秋夕焼明日の天気に太鼓判 辛いのは青より赤い唐辛子 百号の絵に後ずさり美術展 作者不詳の現代アートや花八手
草虱今朝の散歩のお土産は 昔は枝を折つたのだらう紅葉狩 ポケットに見られたくない荒れてる手 聴力の健在秋の蚊に気づく 座布団を抱へ行き先は村芝居