滑稽俳壇 2021年2号 八木健 選
四月号から「微苦笑俳壇」は、「滑稽俳壇」に名称が変わっています。 ●特選 初空に見えないけれど宇宙ごみ /田端敏弘 見えるものを写生するのが 子規さん以来の俳句の伝統である。 しかし、この句はそれに逆らって見えないものを描き、 滑稽を生み出した。私も見えないものを詠もう。 「月の裏あまたのあばた隠れてる」。 AIにや詠めぬ鶏頭の十四五本 /田上勝清 AIがもてはやされる世の中に物申すというわけである。 「鶏頭の十四五本もありぬべし」は、AIには絶対に詠めない。 この子規の句は名句と言えるかどうか論争もあったが、 令和の時代になって再評価されるね。 GoToをちゃっかり利用神の旅 / 荒井 類 オリンピック組織委員会が GoTo トラベルを利用してたしなめられましたね。 事業の本来の目的と違う使い方ではないかと言うことでしたが、 神様も便乗していたとは庶民的でええなあ。 ●秀逸
大マスク余白に美人らしき顔
耐震性ばつぐん蓑虫のワンルーム
初夢にあの世の母と糸電話
善玉も悪玉もみな大マスク
年送るアクリル板の隙間より
千歳飴ぐらいじや今の子は釣れぬ
存分に酸素を食べる日向ぼこ
騙(だま)す意図なくてうつ伏せ虚栗
稲葉純子
川口八重子
古川勝行
柳 紅生
椋本望生
小田龍聖
志村宗明
馬場菊子
濡れ落葉切手剥がしの要領で
何をしに来たのか自問年の暮
描くなら餅より葉っぱあの壁に
ラグビーのマウスガードのごと入れ歯
どの柚子も不器量ばかり柚子の風呂
国産のマスクは何処で買えるのか
木の葉髪あるだけましと頭なで
一様に赤い羽根つけ閣議かな
白鳥はカメラ目線でポーズして
一茶忌や雀なかなか見つからず
忽那耕三
岩見陸二
小田和子
宇井偉郎
平井静江
小田虎賢
西尾泰一
石川 昇
久松久子
宮田久常
セータ着てなにか足りない首まはり やはらかやお国言葉も里芋も 西高東低冬将軍の作戦図 寒さうな光を灯し裸電球 闇汁の疑心暗鬼を楽しめる
おひらきは鰭酒に眼が座る頃 雑炊が好きでお鍋の底覗く 眼鏡はずして風呂吹を食ふ一(いち)家族 冬夕焼濃すぎてなにか起きさうな 死んだふりするのが上手枯木たち
湯婆(ゆたんぽ)の温みを知らず核家族 自らの色を呟き吾亦紅 すぐに倒れる根性のないブーツ 埋火をつついて恋の句をひねる 野望などなくて懐炉の胸熱し