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 本阿弥書店月刊誌 
「俳壇」 
より

本阿弥書店



滑稽俳壇  2025年11号  八木健 選

四月号から「微苦笑俳壇」は、「滑稽俳壇」に名称が変わっています。
◆滑稽俳壇は今号より二十一年目に入りました!

●特選


 来賓は医者猛暑日の運動会 /髙田敏男

 お医者様には日頃からお世話になっている。町内の名士でもあり、これまで来賓としてご招待してきた。しかし、最近は当日の緊急事態への要員としての意味合いも強くなりつつある。従って、事務長による「代理出席」では困ります。





 生きてゐる人を数ふる生身魂 /曽根新五郎


 以前は亡くなった人を数えていた。ところが、その数がだんだんと増えて、いつの間にか生きている人の方を数えるようになってしまった。生き死にの逆転したところに滑稽が生まれた。現実を率直に詠み、カラリと乾いた笑いがいい。





 戦力外通告を受け捨案山子 / 武藤洋一


 戦力外通告はプロの選手に言い渡されるものである。要するに「使えない」ということで契約解除や見直しをされる。これは案山子も例外ではない。本人はまだ十分役立てると思っていても突然に宣告される。捨案山子の気持ちが分かるなあ。





 ●秀逸

捕虫網空気ばかりを捕えたり
小人の閑居楽しや鰯雲
採り忘れ胡瓜は拗ねて曲がりけり
帰省孫ねだる時だけ手をつなぐ
秋暑し古都にオーバーツーリズム
かき氷しむることなき入れ歯かな
朝顔を数ふることも惚けぬため
めだか鉢洗ふおとなの水遊び
猛暑てふ言葉に慣れてしまひけり
偽物も結構いけるビールかな

馬場菊子
菊池 健
平野暢行
石井 博
米田正弘
阿部鯉昇
池田宏治
中邑義継
あきのさくら
前 九疑


 ●佳作

籐寝椅子イマニネル夫人横たわる
爽やかや笑顔で死亡保険売る
いい人でいい句浮かばず水中花
心太屋が又も押し出し草野球
向日葵に発破をかけてもらひけり
質問も答弁もメモ国寒し
裸電球消えLEDの夜店かな
おかわりはてんこ盛りする今年米

小林浦波
柏原才子
大石洋子
村上小一郎
川口八重子
伊豆周治
柳村光寛
川添節子


【筆まかせ】八木健(滑稽俳句協会会長)近詠

しばらくは卓に眺めて蟬の殻
攻撃の目で構へゐる子かまきり
星流る空にひつかき傷つけて
秋刀魚自身はあづかり知らぬその高値
ちよつと心配啄木鳥の脳しんたう

星と星ぶつかりさうに銀河混む
いつの時代か歳時記の震災忌
無花果(いちじく)と書く一字一句を間違はず
漢字ひらがなやはり片仮名レモンの句
分ける野がなくても野分大都会

手と足がばらばらでこそ盆踊
熱中症予防の決め手は引きこもり
澄む水に毛脛を浸し大男
ほとんどが消息不明流れ星
秋澄めり澄むとは無色か透明か