滑稽俳壇 2025年6号 八木健 選
四月号から「微苦笑俳壇」は、「滑稽俳壇」に名称が変わっています。 ◆滑稽俳壇は今号より二十一年目に入りました! ●特選 マスクして何のマスクか問はれけり /曽根新五郎 新型コロナにインフルエンザ、単なる風邪や花粉症の場合もある。また、病気や症状はないが、マスクで素顔を隠していたいという心理的マスクの人も。「あなたは、いったいどれですか」「はい、今朝は髭を剃る時間がなかったもので」。 場所取りがべろんべろんの花見かな /田上勝清 場所取りのために早めに退社させてもらう。うまく場所は確保できたが、開宴までずい分時間がある。とは言え、どこかに出かけるには中途半端な時間。先にちょっと飲みながら待つとするか。新入社員の最初の大きな仕事かも知れぬ。 AIに春の愁いはあるかしら / 石井 博 AIに俳句を詠ませると、それなりの作品を作るようだ。しかし、「哀しみ」や「愁い」など、繊細で微妙な人間の心の動きを表現するところまでは無理だろう。と俳人としては思いたい。「春愁ふ人の機微詠むAIに」。 ●秀逸
倍速で恋を語るや百千鳥 摘むだけで後はお任せ土筆食ふ 春うらら自動で便器の蓋ひらく 卒業式終えて明日からまた他人 米の高値下げぬ陰謀春の怪 春うらら日の目を見たる備蓄米 祝いの席に一番乗りや春の蠅 卒業や金髪茶髪染め直し
内野 悠 伊藤博康 忽那耕三 永井貴士 天童光宏 柳村光寛 稲葉純子 龍野ひろし
AIが地球を支配か四月馬鹿 どの顔も善人めいて彼岸寺 半仙戯漕ぎ仙人に近くなる 黄砂来るゴビの砂漠のある限り 白魚といふ透明は絵にかけず 近道の木の根にてこずり山笑う 陽炎の中へと飛ばす都バスかな 亀鳴くやマドンナの居ぬクラス会 大木になつた独活など見たことない 春場所の横綱直ぐに居なくなり
宮田久常 髙田敏男 川口八重子 宇井偉郎 上田 守 岩見陸二 腰山正久 平田 秀 小田和子 松永朔風
脚がもぞもぞ啓蟄が近づいて 挿木して根は生えたかと抜いて見る ピーと張り上げひよろとよろける春の鳶 一粒万倍この種籾と生きて来た 朝寝してうしろめたさの中にゐる
初蝶は飛び方見ればわかるじやん 散る花にわづか二種類飛花落花 慎重派マスク二枚を重ねてる 遅刻には自己責任の朝寝かな 桜餅葉も食べたけりやご自由に
吹いたのか今年のけぢめの春一番 風光るそこいらのもの巻添へに 甘党に甘茶の甘さもの足りず 大つぴらに「馬鹿」を使へる四月馬鹿 潔し振り向きもせで鳥雲に