滑稽俳壇 2023年5号 八木健 選
四月号から「微苦笑俳壇」は、「滑稽俳壇」に名称が変わっています。 ◆滑稽俳壇は今号より二十一年目に入りました! ●特選 干大根くの字しの字や一の字も /平井静江 実景を素直に詠んだ写生句だが、なんとも可笑しい。 句の構成も「く」の字「し」の字と続いて、思いがけなく 「一」の字ときた。最後に変化球がきて、読者を楽しませてくれる。 オモシロイ句材は身の周りにある。 母の字に乳首が二つ春来る /森 一平 母の字は「女」に乳房の象形文字。 「苺」の字は乳首のような実のなる草という意味がある。 新品種の博多の「あまおう」は、「赤い」「丸い」 「大きい」「美味い の頭文字と、甘さで王様となるようにと命名された。 疲れたな医者も患者も豆を撒く / 細見俊雄 まだはっきり終わったとは言えないわけだが、 コロナ騒ぎが三年も続けばうんざりである。率直な実感だろう。 「医者も患者も」のあとの下五の「豆を撒く」の意外性がいい。 くたびれきった表情が見えてくる。 ●秀逸
閑人にじつと見られて亀鳴けり 手に取りて少し老けたと思ふ雛 絶交のぶらんこがまだ揺れてゐる 日めくりの下で立春出番待つ 草餅を頬張るときも反抗期 卒業の寄せ書きにある誤字脱字 山笑ふマスク外せる話出て 卒業の以下同文の一人かな
岩見陸二 田上勝清 柏原才子 藤森荘吉 村越 縁 曽根新五郎 久松久子 築史善正
串抜かばそそと逃げ出す目刺かな 入学の身の丈隠すランドセル 下心隠さずバレンタインチョコ ずつしりと重い昭和の布団かな 着ぶくれて本心隠しきつてゐる 麦踏をしながらウクライナ語る 初めてのバレンタインチョコ吾は八十路 新妻の声のころがるホーホケキョ 春の風邪検査キットをまづ買はむ 受験子のただいまの声弾んでる
椋本望生 伊藤博康 前 九疑 石川 昇 川口八重子 小田和子 水野高爾 稲葉純子 米田正弘 平田 秀
冬の蠅生き延び今日から春の蠅 麦を踏む膝から下の力抜き ひさひさは凍滝ゆるむ水の音 蕗の薹食べたと会ふ人ごとに言ひ 肩身が狭いバレンタインの義理チョコは
馬鹿貝と呼ばれてゐるを知らぬ貝 うな重に出番とばかり山椒の芽 涙もろくて潤目鰯のやうなひと 飲みねえ飲みねえ畳鰯を炙るから もの足りぬ雲ひとつない春の空
受験子をはげます言葉選び抜く ロマンチックな色とはこれよ春の月 春よ来いなんてつまらん春は恋 外泊の理由を言へずうかれ猫 春の字が取れてキャベツは硬くなる