滑稽俳壇 2024年9号 八木健 選
四月号から「微苦笑俳壇」は、「滑稽俳壇」に名称が変わっています。 ◆滑稽俳壇は今号より二十一年目に入りました! ●特選 扇風機回り始めは去年の風 /平井静江 さあ、いよいよ仕舞っておいた扇風機の出番である。スイッチオン。ゆっくりと羽根が回り始め、羽根の周りの空気が動き始める。最初は去年の風だが、勢いよく回転して今年の風ができる。詩は非科学である。 写経終え毛虫を焼きにいそいそと /柏原才子 これだから人間は信用できない。心を静め、神仏や生きとし生けるものと交感したのではなかったか。毛虫を焼くのはせめて別の日にしてもらいたいね。特に、このいかにも人間味のある「いそいそ」がいけない。 言い訳に尻尾を置いて行く蜥蜴 / 志村宗明 蜥蜴が尻尾を残して立ち去るのはなぜか疑問だったが、「言い訳」と知って納得だ。まあこれで勘弁してくださいと言っているようなものだね。しかし、ところで何の言い訳なのか、それも知りたいね。 ●秀逸
梅雨晴れ間出番窺ふハイヒール 地震の夜しつかり者は竹婦人 本物と同じ音する造り滝 道をしへ慣れぬ道なら先行くな 西瓜買う散歩の途中ではあるが 子も瓜も褒めて育てたのに曲がり クロールのゴールタッチで突き指に 宇宙目高の値打ちわからず目高には
稲葉純子 村上小一郎 馬場菊子 平田 秀 木染湧水 渡辺一充 内野 悠 柳 紅生
汗引いて冷やされすぎるレストラン コンビニが溜り場となる男梅雨 ハンモックに逃れて我は自由の身 木蓮になりたいらしい花辛夷 野良着からユニクロに換え早苗饗に 待ち惚け食わされ外すサングラス 人の世をいびつに眺め金魚玉 その声で威厳を放ち牛蛙 父の日の深夜に戻る三姉妹 お待たせと言いつつ来たが空梅雨で
石井 博 腰山正久 北川 新 村松道夫 平野暢行 白井道義 髙田敏男 久松久子 阿部鯉昇 あきのさくら
こんなものですがと出され冷奴 ペンキ塗りたてだから動けず青蛙 よれよれになつて頑張る氷旗 握る手に汗なのに手に汗握るとは 下駄履いて好きな季節は夏と言ふ
世渡りに見せぬ苦労の立ち泳ぎ 梅雨入後必ず晴れる天邪鬼 買つた日にいきなり汗の夏帽子 和装には違ひないけど浴衣では 絨毯をめくれば出てくる夏座敷
強弱自在アナログの団扇風 この膝は恥づかしがり屋半ズボン 藤袴アサギマダラをおもてなし 過ぎたるは及ばざるもの香水は 似て非なる季語短夜と明易は