滑稽俳壇 2022年8号 八木健 選
四月号から「微苦笑俳壇」は、「滑稽俳壇」に名称が変わっています。 ◆滑稽俳壇は今号より二十一年目に入りました! ●特選 ライバルの香水匂ふ社長室 /柏原才子 仕事のできる人は鋭い感覚をもっている。 自分より明らかに格下の相手は気にならないが、 自分の立場を脅かしかねない実力者のことは鋭敏に嗅ぎ分ける。 ということは相手もまたしかり。香水は毎日変えましょう。 子だくさんいい仕事する夏燕 /平井静江 「いい仕事してますねえ」は、テレビ番組「なんでも鑑定団」の 中島誠之助さんの決め台詞。巣の造りといい、 子育ての熱心さといい、申し分のない両親ですなあ。 おや、人間はゴミ屋敷に育児放棄とは情けない。 だんご屋に元祖と本家風薫る / 石川 昇 元祖は創始者のこと、本家は血筋の正統性を主張するわけだが、 売上の差で骨肉の争いなんてこともある。 しかし、この句は「風薫る」だから仲良く繁盛しているらしい。 「青嵐」や「五月闇」だと心配になるね。 ●秀逸
父の日の黒幕は母電話鳴る 弟のいちいちついてくる暑さ 地球との反りの合はざり半仙戯 サングラス外しタモリが地層見る 新緑といふに授業か学生は ストレスを脱ぎ棄てに行く夕端居 風鈴の音色も替わる二枚舌 緑蔭といふ大部屋に四肢伸ばす
村越 縁 小林英昭 柳 紅生 村上小一郎 志村宗明 久松久子 髙田敏男 稲葉純子
どん底の底に底なき暑さかな 孑孑やスイッチバックのこの憂き世 野ねずみに先住権や避暑の家 目算の外れなりけり余り苗 子ども皆大どもとなり子どもの日 顔利きの一つのアイテムサングラス 四人とは多過ぎないか梅雨の傘 また今日も釣れない話鰯雲 老人が裸見せ合ふジムの風呂 母親がマスクを取れば泣く子かな
椋本望生 北川 新 山本 賜 平野暢行 松永朔風 壽命秀次 松村正之 永井貴士 森 一平 阪根瞳水
なぜ丸いそれが不思議の石鹸玉 群れることなき初蝶の自尊心 あたふたとして春昼を台無しに 蛻(もぬけ)の軽さ手のひらの花屑に 酸つぱいの顔して夏蜜柑褒める
筍は旬のものだとわかりすぎ 好物を問はば風よと五月鯉 二次元となり引退の鯉幟 もつたいないと丹念に粽解く 麦秋の景の三百六十度
ゆびさきに命の温もり袋角 食通をむせさせてゐる麦こがし カレンダをめくれば夏がめくるめく 孤独にもなれ水槽の金魚くん サングラスひとつをさがす四苦八苦