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受賞者発表   審査方法と結果   審査経過と講評   第六回滑稽俳句大賞総評   応募全作品
 
  
  大 賞
  愛媛県   日根野聖子

天に何言ひつけに行く揚雲雀
豌豆の筋とるファスナーおろすごと
山中の不発弾なり筍は
かき混ぜてソーダのため息解放す
わがままは苦味にも似て夏蜜柑
カラットに換算新米の輝きを
願ひ事は叶はないこと星祭
とんぼうの群れ飛び静寂汚さざる
秋茄子や嫁がず産まずですみません
窓閉じてみても浸み込み虫の声



  受賞の感想

 「もったいない」はワンガリ・マータイさんによって、「おもてなし」は滝川クリス テルさんによって、世界に知られる言葉となりました。日本固有の概念で他の言語に変換できないために、そのままの日本語が世界で使われるのです。「滑稽」も変換しようがありませんから、有名になれば、このままで使われるに違いありません。しかし「滑稽」は、日本人に忘れられようとしています。俳句は、日本の韻文学の歴史の結晶であり、その俳句とは「俳」のある歌、滑稽な句を意味することも知られていません。滑稽の意味は深長で、俳人でさえ、「滑稽」を理解し表現できる人は、ほとんどいません。俳句の様々な分野の中でも、最も難しい滑稽俳句で大賞を受賞したことは、大変な誇りです。「滑稽」を広めるべく、滝川さんにも負けないようなプレゼンの方法を研究しなければと考えております。




  次 点  三重県
   小林英昭

仙人のメインディッシュに春霞
いつせいにたんぽぽ笑ふ河川敷
海中をいそぐ海月の三度笠
足取は割れてゐるなりなめくぢら
あめんぼのひらく水上舞踏会
スナップの隅に秋風映り込む
鯔跳ねる出世あきらめたる途端
空を飛ぶ鉄腕アトム空也の忌
すき焼の奉行リコールされにけり
まな板の海鼠小声でケ・セラ・セラ



  受賞の感想

 柳の下に二匹目の泥鰌はいるか。昨年よりも釣り針を増やして(五作品五十句)その成果やいかにと待っていたところ確かな手ごたえが…。引き具合は昨年(大賞)のものにはおよばないが、それでも型は十分(次点)。二年連続の受章は身に余る光栄、誠にありがとうございます。俳句をやっていて、本当によかったと思います。ちかごろは滑稽俳句に明け暮れる毎日。それこそ、寝てもさめても滑稽、滑稽。頭のてっぺんから足のつま先まで滑稽。これでいいのだとばかり多作多捨をモットーに滑稽俳句に取り組んでいます。さて、次回は釣り針を何本にしようか、いまから手ぐすねを引いております。



  次 点  長野県
   横山喜三郎

ぬけぬけと居留守をつかふ蟻地獄
老いの家どたばた揺らし夏休み
濡れ場にも水を差しをり老菊師
哲学の道に焼芋頬張りて
古代米とふ新米の届きけり
遊ばせるつもりがはまり加留多とり
マスクしてだれが誰やらすれ違ふ
廃村にぽつねんとして雪女
彼岸会や国政も説く若尼僧
活断層ゆらす乱痴気花筵



  受賞の感想

 「春雷の一閃のごと入賞の報」  
 入賞することができ苦労のし甲斐があったと本当に嬉しく思っております。この頃、微苦笑俳壇にも会報にも入選することが少なくなり、スランプ気味でしたが、大きな張り合いになりました。私は元々、駄洒落・ユーモア・滑稽など冗談を言うのは好きな方ですが、それを俳句と結び付けるのは別問題です。選者の先生方の言われる「上質な滑稽味」をいかに一句の中に取り込むか、四苦八苦します。微苦笑俳壇や会報の入選句を見て、皆様の着想の特異さ、素晴らしさにいつも「やられたー」と感嘆するばかりです。そんな数々の名句を見てきたからこそ、今回の入賞につながったと、心から皆様に感謝しております。



  次 点  千葉県
   原田 曄

猫がねこ咥へていそぐ春の暮
まだ生きて動く頭よ日脚伸ぶ
万愚節別冊付録正誤表
半身を砂に投げ出す浅蜊かな
かつと口開けて閻魔の睨む蝿
寝かせおく座りたがらぬラ・フランス
大根に道を教はる街の畑
蓮根堀両手もて抜くおのが足
大寒波スマートフォンが身震す
水金地火木土天海独楽回はる



  受賞の感想

 はからずも次点にお選び頂きうれしく思っております。ありがとうございました。滑稽俳句と云えば、藤田湘子の遺句集『てんてん』のあとがきに、湘子はかねてから「破顔一笑」の句を作りたいと云っていたことを小川軽舟が紹介していたことを思い出します。一読して爆笑の句を俳句形式の格調で読みたいと思っているのですが、なかなか思うような作品ができません。この頃、人は大真面目になればなるほど、端からみれば実に滑稽に写ることを発見しました。しばらくは、ここを突破口にして励んでみようと思っています。




  入 選
  東京都  池田亮二

花の世をとどのつまりの無位無官
老いを追う恍惚というゼノンの矢
年忘れ逃げた女房を惚気(のろけ)つつ
三毛悠々トラ蹌踉と朝帰り
老呆の散歩は道に迷うまで
春日遅々モンローウォークの浮かれ猫
歯を抜いてガッツポーズの歯科医かな
老骨の右翼と左翼飲み仲間
極楽へツアーで行くや遍路道
団塊っ子だってねぇ全共闘育ちよと日向ぼこ



  入 選
  徳島県  立花 悟

妻今日も新年会へタチツテト
世を嘆く世代が囲む牡丹鍋
初鴉せめて白袋はきなはれ
湯豆腐やインプラントに生かされて
春を待つ役行者の下半身
水仙を拾う空缶愛でる路地
近況も述べて無名の賀状くる
戒名は浮き世の位寒の月
喫煙者外へ木枯し紋次郎
浄財の抽出し軽し冬茜



  入 選
  福岡県  赤松桔梗

初時雨ボス猿不意に家出すと
小春日や家出ボス猿帰還すと
初雪や復帰ボス猿又家出
小寒やボス猿未だ帰還せず
大寒やボス猿遂に死の判定
すき焼きや結婚記念日又忘れ
ジャンボくじ末等十枚大当たり
婚四十妻のごまめはまだ未熟
年賀メールハガキでくれと返信す
初売りのチラシのトップがお墓だぜ



  入 選
  愛知県  城山憲三

禿頭を嫌ふかのごと籠枕
鬼嫁は外とも聞こゆ追儺かな
漱石を枕の不覚昼寝起
軽暖や乙女の四肢に熱視線
浅酌と云ひたるはずの花の宴
社長とも云はれ場末のおでん酒
影二ついつか一つに藁塚(にお)の陰
怒りてもやがてやさしき雪だるま
駐在の自慢は一つ島椿
野仏に微笑み返す遍路かな



  入 選
  神奈川県  竹澤 聡

吊橋の揺れただならず冴返る
ドロップの赤舐めてゐる春の風邪
山笑ふ調子の悪い自動ドア
あくまでも丈夫な金庫秋に入る
不人気の落語家みみず鳴きにけり
審判に叱られてゐる秋暑かな
天高し補欠選手もいきいきと
テーブルにからだ預けて秋を寝る
着ぶくれや彼女もとよりFカップ
ロボットに掃除をまかせ日向ぼこ



  入 選
  東京都  山本 賜

おとなしい犬をひつぱるサングラス
マスクしてマスクの人を訝む
敬老日膝の痛みを分かち合う
気が付いて背すじを伸ばす冬講座
コスモスに呼ばれ離宮の客となる
七人にぴつたり分けたひなあられ
ゴッホが描いてもじやがいもはじやがいも
ウリは月高層階のレストラン
点呼する声嗄れている紅葉狩
北狐観光バスを止めにけり




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審査方法と結果

 十句を一組とし、一組を一作品として、十句すべての出来栄で評価、審査を行いました。
応募者総数六十九名、七十五組すべての作品を、無記名で各審査員にお渡しし、
審査いただきました。一位から五位までを選出いただき、一位は五点、二位は四点、
三位は三点、二位は二点、五位は一点として、集計しました。
 
 その結果、以下の各氏が受賞されました。最高得点の十三点で大賞を獲得したのは、
日根野聖子でした。次点は、九点の小林英昭、八点の横山喜三郎、七点の原田曄です。
入選は、五点の池田亮二と立花悟、四点の赤松桔梗、城山憲三、竹澤聡、山本賜でした。
 三点…岩城順子、小林英昭A、小林英昭B、寿命秀次、田村米生、寺田秋悦
 二点…金澤健、白井道義、柳紅生
 一点…笠政人、小林英昭@、森泉休

審査経過と講評
「チャレンジ精神に拍手」 

    
俳人協会「俳句文学館」編集長  上谷昌憲

 正直なところ、滑稽俳句のレベルの高さに圧倒されつつ選をさせて頂いた。どのページからも卓抜な句が浮かび上ってきた。そこでハードルを高くせざるを得なかった。
 目盛りは無論私好みである。
 計らいのある句、予め答の割れている句は、思い切ってパスした。また造語や流行語の使用も、それが詩語として昇華されているかどうかを考慮した。言葉の面白さだけで、実は理屈を述べているだけという句は採らなかった。本歌取りの作品も散見されたが、本歌の手の内から脱していない句は避けた。それを逆手に取って、全く違った世界を創造して欲しかった。俳句と名が付く限り、季語は絶対条件である。季語をどう機能させるかは、滑稽俳句作家のセンスの問題に関わってくるだろう。
 総じて自虐的な作品が多かったが、昨今の自分を潜り抜けていない(体験の乏しい)俳句よりも、滑稽俳句のチャレンジ精神に心から拍手したい。
         

「身近に発見したおかしみや人情味」

    
前愛媛大学学長  小松正幸

 今回もまた秀作揃いで選考には迷いに迷った。最初二、三十を選ぶのはいいが、それからが大変。時を置いて何回も読み直し、ようやく決断したような次第である。しかし、選ばなかった組のなかにも秀句が一、二必ずあって、棄てがたい思いは残ったままである。最終的に選にもれた中の秀句を選んで十句並べたらどうなるだろうか。
 一位に選んだ作品はいずれの句も、作者自身のごく身近な事象のなかに発見したおかしみや人情味を素直に詠んだのである。第一句、雲雀が空高く舞い上がるのは、天に何か言いつけに行くんだったのか、第三句、筍の不気味さは不発弾みたいだからなのか、その発見の独創性と衒いのない表現に感服した。
         

「見立ての面白さ」

    
結社「春耕」編集長  蟇目良雨

 一位作品は、見立ての面白さに溢れている。「仙人のメインディッシュに春霞」「海中をいそぐ海月の三度笠」「足取は割れてゐるなりなめくぢら」「まな板の海鼠小声でケ・セラ・セラ」など楽しくさせられる。これが滑稽俳句であろう。類想が無いところがよい。二位「ロボットに掃除をまかせ日向ぼこ」。時代が大きく変わる予感がする。三位「糸遊が過去と未来を行き来する」。過去と未来を行き来する糸遊には恐れ入った。四位「水金地火木土天海独楽回はる」。外された冥王星に思いを馳せる。五位「妻今日も新年会へタチツテト」。発ちつてとの語感が新鮮。

「時代を捉える」

   
 俳人・女優  冨士眞奈美

 十句すべての出来栄えを評価せよとの御指示がありましたが、全作者すべて巧者曲者で、御指示に従うことは難しく、やはり突出して好きな句を見つけた時の喜びには勝てず、かなり片寄ってしまったと思います。皆様まことにお上手なので、仕方ありません。一位に戴いた「花の世をとどのつまりの無位無官」の作者は、これからは俳句人口が益々増える団塊世代のお生まれでしょう。時代の特徴を詠み込まれた作品でとてもいいと思いました。二位の「初時雨ボス猿不意に家出すと」。サルの名前は「ベンツ」ですよね。ニュースを追ったリポートが意表をつき、更に締めの句がグッと効いてます。三位「天に何言いつけに行く揚雲雀」は、一、二、九句目が大変良かったです。四位「初蝶のとつてはならぬ躾糸」にはヤラれました。五位「うんこのように生まれ長寿や紅ちょろぎ」には、金子兜太先生のようで、敬意を表します。その他に、「紙魚喰ひの暗号文だワトソン君」に大いに魅力を感じたことを特筆致します。  

「ユーモアと詩情」

   
 本阿弥書店社長  本阿弥秀雄

 今回も優れた応募作が多々あったが、十句一組なので、一、二句突出していても、その他が平凡なものは選外にした。また滑稽が主眼の作品といえども、重要な構成要素である季語の扱い方、置き方がより適切かどうかを検討し、新仮名遣いまたは旧仮名遣いのいずれかにきちんと統一されているかなども評価の基準とした。順位上位の作品はそれらをクリアし、なおユーモアと詩情に溢れており、刺激を受けつつ楽しく読むことができた。  

第六回滑稽俳句大賞総評
「直感力」「機智」「洞察力」「意外性」

 
  滑稽俳句協会会長  八木 健

 入賞した四名の作品の第一句を、滑稽俳句術で分類してみたい。大賞の「天に何言ひつけに行く揚雲雀」、これは作者の直感力であり、それがすべてと言ってよいだろう。次点の「仙人のメインディッシュに春霞」、これは写生句ではない。「仙人は霞を食う」から「機智」が主導した一句である。「ぬけぬけと居留守をつかふ蟻地獄」、この句は写生から抜け出て、この巣の主は巣の何処かに隠れて姿を見せないが、これは居留守だろうと看破したものである。こういう句を作るには「洞察力」が必要となる。「猫が猫咥へていそぐ春の暮」、この句は日常の身辺で見つけた出来事である。人間とは違い、吾子を「咥へる」という意外性が、この句に驚きとなって描かれて「独自性」の光る作品となった。  

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第六回滑稽俳句大賞 応募全作品
赤松桔梗 初時雨ボス猿不意に家出すと
小春日や家出ボス猿帰還すと
初雪や復帰ボス猿又家出
小寒やボス猿未だ帰還せず
大寒やボス猿遂に死の判定
すき焼きや結婚記念日又忘れ
ジャンボくじ末等十枚大当たり
婚四十妻のごまめはまだ未熟
年賀メールハガキでくれと返信す
初売りのチラシのトップがお墓だぜ


粟倉健二 うかれ猫ひたすら愛を叫びおり
誰の子か月に聞きなとはらみ猫
強そうな赤子は昼寝猫添い寝
手を舐め舐め猫が乗りおりお中元
膝の上艶めく猫や稲光
猫ジャラシ猫少しだけじゃれてみせ
秋刀魚焼く煙のアロマ猫帰る
猫の爪そっとし合って秋深し
柿の木に猫現れて落ちにけり
眠り猫くしゃみ3回日が暮れる


井口裕之 猫の恋なめられてたまるかふふん
天に唾張り付いたまま万愚節
捩花や連隊止まれと言ふけれど
桜桃忌昼休みにオカリナかよ
炎天やアカサカサカス舌を噛む
水の神夏は大いに飲みなさる
みみず這う?(はてな)の形に乾きをり
甲虫西瓜合わせて三千円
鳥兜私何も知りませぬ
いつの世も八釜し六ずかし漱石忌


池田亮二 花の世をとどのつまりの無位無官
老いを追う恍惚というゼノンの矢
年忘れ逃げた女房を惚気(のろけ)つつ
三毛悠々トラ蹌踉と朝帰り
老呆の散歩は道に迷うまで
春日遅々モンローウォークの浮かれ猫
歯を抜いてガッツポーズの歯科医かな
老骨の右翼と左翼飲み仲間
極楽へツアーで行くや遍路道
団塊っ子だってねぇ全共闘育ちよと日向ぼこ


石川節子 穏やかに終活せんと散る桜
空蝉やストレスフリーで転がりて
ボディーウォーマーと言い換え腹巻き若返り
フェイスブック御縁がなくて日記買う
返り花他とは違うと言われたい
初雪や転ばぬ先の出不精者
寝ころんだままに昨日の木の葉髪
使わぬまま錆装束の針供養
青点滅本気で走る年の暮
肉球を洗えば枯野落ちてくる


石倉俊紀 まずもって白馬動かず出初式
音大の入学式や脛細る
砂浴びて上目遣いの親雀
電車混む朝荒川の鵜が笑う
鰻屋の角の定位置茶虎猫
傘の骨食い散らかして初嵐
盆踊り江都なれども炭鉱節
大様よ富士の麓のすいっちょは
乙女には見えぬお七や村芝居
昼酒や千鳥を追うに千鳥足


伊地知寛 父祖に享く名器まゆつば宗易忌
婿養子白酒二杯で二日酔
日永てふ季語もて余す日永かな
良寛を気どり名月丸ひとつ
長き夜や分別ごみを更に分け
諍ひは十五夜団子捏ね加減
すずめ等と余生楽しむ捨案山子
気がつけば婦唱夫随の冬籠
あれそれで通ずる妻と日向ぼこ
明日からは注連縄作りクリスマス


今城夏枝 柊挿す鰯の泪闇に落つ
縛られて夜を明かしたる庭の梅
夕朧テレビドラマに大泣きの
胸をはり水面の鳰走りだす
春落葉かさなり合ひて吹かれゐる
春風邪の少女の声の艶めける
こそばゆし耳元に聞く春の声
この人にあの人に吹き春の風
天敵に乗りあはせたる春一番
春光を掃除機に吸ひ込ませたり


岩城順子 伝説の松にふわりと蛇の衣
糸遊が過去と未来を行き来する
小面に女の情の潜む秋
赤い羽根付けてもらって旅に出る
月天心猫の会議のはじまりぬ
人生は凸凹あって除夜の鐘
妖怪も貧乏神も年迎う
日向ぼこ猫にあくびをもらいけり
振り向けばだあれも居ない冬の坂
嚔して頭上の月を歪ませる


上山美穂 春風にキスされながらペダル踏む
お月様水面の花をかき分ける
苦み誤魔かす菜の花を胡麻で和え
ハエ取りの紙に絡まる髪ぬかむ
蝙蝠よ燕の様にはとべぬのか
ダイエットプールに見えぬ汗流し
幼子よ葡萄は舌でお分けなさい
初盆や灯ろうくるくるカメレオン
芒の穂またがる星空魔女になる
金平糖の踊り軽やか銀河系


遠藤真太郎 新盆や男はなれぬ未亡人
問われたら過労死とせよ万太郎忌
白はきり通せぬものよ放屁虫
還暦も青年部若手稲の花
守秘義務や胡桃の殻より固きもの
サスペンス要所随所に寒椿
稀にいる黒人音痴や聖歌劇
冬の蚊の生きてる証し息白し
買い出しも最後は蔦や大晦日
鏡餅とてしびれるや足あらば


岡崎敏男
揺れづめよ一つ目風船鳥威し
池に散り沈む紅葉と浮く紅葉
橋立の松の並木に紅葉の木
菊人形滝はまことの水落とす
菊花展見て来て庭の菊手入れ
日向ぼこ此処はわたしの指定席
皺の手を見せ合ひ媼日向ぼこ
寒泳を終へ深々と海に礼


小田慶喜 冬銀河眼内レンズ入れキラリ
青き踏む変形性の股関節
飛花落花却下の紙の花吹雪
妻に似る金魚の重さポイ破る
水中花入れジョニ黒の瓶残る
髪洗うボディーとシャンプーせぬ区別
案山子立つアンパンマンの笑うシャツ
体育の日もっと曲がって低い腰
蟲のこゑあれ?松蟲はどの虫だ
山笑ふ口角上げて「御客様」


織田亮太朗 特選を取りて裸になりたけれ
ふりがなの代わりとしての蟻の列
アイスコーヒーいいえ気味のはい
閨のこと露けしところへと隠す
鬼灯の実に垣間見をされてをり
ドッジボール苦手雪合戦得意
逃げ隠れ出来ぬ海鼠の黙秘せる
初景色などと称してみたものの
福引に云々言ひてはずれけり
怖気づくバレンタインの日と知りて


笠政人 初戎宮司ひねもす恵比須顔
大脳の海馬はげます初句会
恋猫の真実一路鈴が鳴る
春愁やパッチテストの背な痒き
親しらず抜かれて啜る心太
ぼうふりを湧かせぬための金魚鉢
独り酌むノンアルコール牧水忌
秋深きボジョレー村の新酒かな
悴みて穿きしズボンの前うしろ
歳末の電飾といふ無駄づかひ


門屋 定 枯れすすき命枯れずや花咲かず
八股(やつまた)大神(おおかみ)拝めば城も秋
海凪いで忽那(くつな)諸島(しょとう)の蜜柑船
頬被り老船長は蜜柑船
師走かな裏道走る営業マン
一抱え匂い優しい新藁よ
新米は光輝き粒粒に
秋の暮れ三津の渡しは眩しきや
餅つきや終えて帰りは星月夜
初詣干支の色紙を賜りぬ


金澤 健 春荒や強がりて舞ふ負け馬券
狼少年しづかに過ごす万愚節
道行きの絵団扇使ふ暑さかな
世渡りが下手で波乗り意のままに
倒立のつま先揃ふ捨案山子
猫じゃらし満場一致で風通す
赤い羽根付けて酒宴を白ませり
神の留守失踪届の出る騒ぎ
新しき闇に寝られず障子替へ
除雪車を雪の中から掻き出しぬ


金山敦観 誉め上げし批判禁句の初句会
結局は預かるママのお年玉
今昔の震災が問ふ絵踏かな
栄転の駅舎疎らや春の雪
卒業の未だ続きゆく祝辞かな
猛者(もさ)達の入部揉み手や新入生
縁結ぶ神々集ふキャンプ村
美女なれど午睡にひびく野獣かな
芭蕉去りライトアップの鵜舟かな
冬怒濤付和雷同の処世術


菊地雅子 自己催眠マイクに演ず冬かもめ
冬初め体重計を泣かしちゃう
クリオネが笑ってくれて小さいネ
愛なんぞ忘れっちまえ古日記
伊勢志摩の牡蠣を頬張る歓喜仏
恐らくは芝居の続き冬籠もり
友もまた奇妙な女人沈丁花
妖精の捕縛に使う花すみれ
十薬を川へ見にゆくお年頃
送句終え浮き人形となるワタシ


久我正明 親方の抱き寄せる尻初相撲
花むしろ下のぬかるみじわりきて
正直を言ふも疲れて万愚節
亀鳴くや俳句の嘘は許される
くねくねと脱ぎ捨てていく蛇の衣
糟糠の猫とわけあふ夕端居
籐椅子のまだ生きそうな寝顔かな
刑務所の塀を下り来る蜘蛛の糸
もうかりまつかもうかりまつせ夾竹桃
大根の白き裸体を胸に抱く


工藤泰子 核心を突いて池心のかいつぶり
功罪の打音の検査けらつつき
敗荷の重荷や敗者復活は
腹割つた話酢海鼠食べてより
勾玉となりて海鼠の神がかる
膨らんで見せて海鼠の3D
大海鼠なりたきものにブーメラン
海底の海星海鼠の宇宙観
白鳥のバレーシューズを見てみたし
火袋に月と日の穴風花す


國分三徳 われこそは免震構造蟇
啓蟄ののろのろのろとまだパジャマ
鯉幟どれが連れ子で継子やら
梅雨晴間詐欺師の入歯干してあり
足欲しと幽霊の子の拗ねており
質種になってしまった蛇の衣
月涼し人魚の臍は秘密なの
秋遍路泌尿器科から歯科眼科
法華経と鳴く夢を見た寒鴉
キッスなどもってのほかよ嫁が君


小西領南 菊人形女の胸は籤(ひご)で組む
香(かぐは)しく立つ弁慶や菊人形
懸崖菊ひらかぬ蕾二つあり
懸崖菊値段上げれば売れにけり
菊花展の隅に便乗盆栽展
世話役の受賞は贔屓菊花展
受賞の札大き過ぎたる菊花展
マスクの人に離れ座す待合所
河豚料理絶対食べぬ医者のあり
仏壇の前で仕留めし油虫


小林袈裟雄 初詣愛を届けた警察署
刃物砥ぐ腹がへる程十二月
田の蛙小便すればハタと止む
初句会先生の字の滑りけり
冬の谷ふるえ乍らの小用かな
松手入れ酔が回ってころげ落ち
白目だす子供の顔の初芝居
初富士や尻尻尻の尻を見て
初市や老もさがすおれの本
木の葉髪抜けに抜けたり丸坊主


小林和夫 結婚をすすめる人の家庭不和
独身者今年も鳴らすシングルベル
独身者哀愁焼いて初サンマ
あの人の顔見てわかった今年の干支
パチンコで負けた時だけ哲学者
「やりません」答は確定あと理由
癒しすぎ単なるナマケ育つだけ
若者は苦労買うのに金がない
あの話あいつに言ったらこう変わる
「ここだけの」と聞いた話があちこちに


小林英昭@ 国産と目立つところに春の塵
木洩日のつつく蜥蜴の鼻つ面
春愁のゴリラ夕日に手をかざす
魚籠の中釣果でつかい雲の峰
下町と思ひ西日の気が置けぬ
里山さんから三秋の詰合せ
もぐりつこならにほどりの金メダル
尽くしてもあなたは捨てる紙懐炉
雪下ろしけさのあいさつ屋根と屋根
ここだけのはなしよママは雪女


小林英昭A 啓蟄や勝負下着にかへてある
春の猫第一志望はゆづれない
をちこちに蝶とまらせてゐる楽屋
岡場所の木戸をかためる女郎蜘蛛
一割に満たぬビキニの守備範囲
日曜はダメよと尻をふる金魚
カップルの尻に証拠の草虱
母さんの乳房勤労感謝の日
障子閉めはなしとたんに秘密めく
役得にありついてゐる紙懐炉


小林英昭B うららかや地球は浮いてゐるらしい
草餅にほんのり犬のマーキング
初蝶のとつてはならぬ躾糸
なんたつて営業力は蟻の脚
攻め強く守るに弱い海水着
短足の父が心配茄子の馬
障子にはしばらくは目をつぶらせる
遺産分狐狸に鼬の参戦す
鯛焼が泳ぎ国中大さはぎ
老衰と医者はカルテに枯尾花


小林英昭C 仙人のメインディッシュに春霞
いつせいにたんぽぽ笑ふ河川敷
海中をいそぐ海月の三度笠
足取は割れてゐるなりなめくぢら
あめんぼのひらく水上舞踏会
スナップの隅に秋風映り込む
鯔跳ねる出世あきらめたる途端
空を飛ぶ鉄腕アトム空也の忌
すき焼の奉行リコールされにけり
まな板の海鼠小声でケ・セラ・セラ


小林英昭D 恋猫の生傷たへぬきのふけふ
ときどきはため息をつく風車
餡の粒ビバーグしてるかき氷
晩年はこもりがちなり蝸牛
蜘蛛の囲の売りにでてゐる三代目
窓際や気づけば秋の風鈴に
これはひどい歯科医ののぞく柘榴の実
大根引く足の太さは原寸大
水洟や鼻の穴からロープウエー
白息にからめとられてゐるベンチ


小柳恵子 断捨離の身辺清し風邪を引く
手の餅は搗きたて彼の唇思う
七草を言える安堵や七十才
初鏡髪結い上げて首のしみ
思い切り派手なマフラープレゼント
高級は子に回すかな香辛料
新春のテレビ妻たちかしましい
初滑りミニスカートと皮の靴
男らのそうさ線上雪女
正月は言いたい放題し放題


佐藤春夫 海女は女子陸女(おかま)は男子世の習ひ
踏まずとも鳴き入る砂や春3・11(あのひ)
螢烏賊死に急ぎては光り出す
木枯しを春一番は吹き倒す
墓地の秋会ひたき人の待つ列び
空(そら)鰯菜箸短か網は空(から)
神無月仏おられる願ひ事
お身拭ひホコリの所カユミ在り
またメタボグルメ住処や寝正月
寒雀凍る小路をピョンと跳ね


志賀敏彦 恋猫に寡婦の嫉妬の激しかり
マネキンと云へど裸は眩しすぎ
冥土への地図拡げをり生身魂
悩ましく裳裾乱せる菊人形
禿頭を銀盤として冬の蝿
ひばりと千代子で冥府賑はふ大晦日
老いらくの恋語り合ふ日向ぼこ
独り身の閨に入り込む嫁が君
居坐りし貧乏神と年酒酌む
屠蘇に酔ひうまく云へたるプロポーズ


寿命秀次 歌留多会できる程もつ診察券
秘宝館軒の氷柱も硬直す
艶っぽい声褒めらるる花粉症
鳧親子ポリス随へお引越し
骨っぽい風が欲しゐと鯉のぼり
彩りを変へて紫陽花生き上手
地下鉄は時々甲羅干しに出で
口癖に女難は遺伝と生身魂
煤逃げの戦力外へ志願かな
皆スマホ終りお開き年忘れ


白井道義 富士山の歪み直して初暦
金ぴかの年玉袋だつたのに
目標を三日で破る三が日
開票の前に当選冴返る
春愁や無い物ねだる形見分け
ごきぶりの進路予想の大きな輪
短夜や夜は鳴かない鳩時計
マネキンの裾の乱れや案山子立つ
身に入むや成人病の腹六分
一撞きに半時並ぶ除夜の鐘


城山憲三 禿頭を嫌ふかのごと籠枕
鬼嫁は外とも聞こゆ追儺かな
漱石を枕の不覚昼寝起
軽暖や乙女の四肢に熱視線
浅酌と云ひたるはずの花の宴
社長とも云はれ場末のおでん酒
影二ついつか一つに藁塚(にお)の陰
怒りてもやがてやさしき雪だるま
駐在の自慢は一つ島椿
野仏に微笑み返す遍路かな


鈴木和枝 丸椅子今もおでん屋流行らせている
水仙いつも直立で風邪引くな
北風小僧干し大根が好きババも好き
山茶花の恋蕾のまま年を越す
喪のハンカチ涙のネジ預けておく
苦も楽もみんな持って暖房の室
冬草は根っこに重気おいている
農婦のはしくれ天気予報は必ず見てる
いわれるまま体温計挟む人間に戻りたい
一枚二枚脱いでもラン咲かせる腕がない


鈴田浩二 群れる蟻横着者もいて晩夏
蝉しぐれ母の小言と生き写し
水中花水替えてみる鎌の月
0型の本領隣家雪降ろし
陽だまりの猫の親子がかく鼾
木瓜咲きて妻もいくらか仲間入り
前頭禿頭力士冬の陣
春うらら地方競馬で金字塔
バイカルの大寒抱いて手切れ金
ゆず風呂に願いを託す加齢臭


竹澤 聡 吊橋の揺れただならず冴返る
ドロップの赤舐めてゐる春の風邪
山笑ふ調子の悪い自動ドア
あくまでも丈夫な金庫秋に入る
不人気の落語家みみず鳴きにけり
審判に叱られてゐる秋暑かな
天高し補欠選手もいきいきと
テーブルにからだ預けて秋を寝る
着ぶくれや彼女もとよりFカップ
ロボットに掃除をまかせ日向ぼこ


立花 悟 妻今日も新年会へタチツテト
世を嘆く世代が囲む牡丹鍋
初鴉せめて白袋はきなはれ
湯豆腐やインプラントに生かされて
春を待つ役行者の下半身
水仙を拾う空缶愛でる路地
近況も述べて無名の賀状くる
戒名は浮き世の位寒の月
喫煙者外へ木枯し紋次郎
浄財の抽出し軽し冬茜


田中早苗 シャネルはも尻尾を巻けり蜜柑の花
着ぶくれて暖簾分け入る年金日
雪の降る畑に出ぬ日を給はりて
寒九の水沁むる六腑やバイク駆る
ねんころり妣の背中のぬくとかり
灯の点々白河郷に雪積むる
駅伝の足はマシンや冬深し
厄落葉のはじめの水を浴ぶ
年玉に英世一枚増しにけり
桜咲く切手を貼りて病む友に


田村米生 白魚の胃袋までははしゃぎけり
夜桜や大人迷子のアナウンス
ほなさいならアイスクリーム割り勘よ
あの人を忘るるためや茗荷汁
天花粉すでにポーズを取るしぐさ
食べ残すたうもろこしの粒数ふ
桃すする君子のやうな顔をして
禿頭にオーバーランの赤とんぼ
お似合ひの夫婦と言はれ木の葉髪
寒稽古寝技にあへぐ女弟子


寺田秋悦 去年今年字足らず字余り句跨り
目が覚めることの目出度きお正月
初富士や股の下には逆さ富士
太陽を一廻りして初暦
松過ぎて暇持て余す余生かな
神の手がコンダクターや虫時雨
かたつむり家を無くしてなめくぢり
芋を焼き饅頭を焼き股火鉢
人生の戦後世代や敬老日
ゆるキャラに紛れてゐたりサンタさん


飛田正勝 松明けの天寿の父や泣き笑ひ
読み初めや老いて源氏の物語
雪溶けて太郎次郎の居ない里
一休みする鬼を待つ鬼やらひ
紅葉の中の白梅はにかめり
四季あれど今が仕合せ猫の恋
縄文の貝塚跡や犬ふぐり
父の日や独り飯食ふ昭和の子
生身魂一人で渡る長寿橋
一隅の等外の菊目で撫でり


中井優希 石蹴ったはずの足先 地面蹴る
命がけ 渡った先は 定休日
かっこつけ 片手運転 中学生
「明日から」いつまで経っても明日来ず
女子の目が凍る 男子の武勇伝
徹夜だけ 自慢してみる テスト前
「おしゃれとは・・・」 悩んで結局 白いシャツ
「あと5分」 起きれず遅刻 冬の朝
食材を 買って満足 自炊せず
観光地 行ったことない 地元人


中西道行 嘘つぱち段段ばれるおもてなし
ぼつたくる富士山噴火の入山料
不可思議な地球に生まれ類人猿
猪と間違えヒトをまたも撃つ
あのヒトもこのヒトも皆枯尾花
徒然に放屁虫鳴く冬の朝
翔べぬ鳥後を濁して冬の空
紅葉の見間違いにて松の枯れ
寝転んでお迎えを待つ冬の夜
正月や誇大表示のおせち食む


新島里子 思ひ出し笑ひ一人の初笑
スリツパが脱げさう寒波襲来す
品行方正たらんとすれば大くさめ
焼芋買つてほくほく杖は置いてきぼり
あきあきしたと畑をのり出す大根かな
長短肥痩よりみどり干大根
わけありの落葉同士かささやける
神田の生まれよふところも空つ風
不良老人手はじめのサングラス
この十句左団扇でつくりけり


西をさむ 初鶏の小節回して修めけり
爛々と閨の片隅嫁が君
馬刀貝の塩と潮との早とちり
お嬢ちゃんこっちゃここちゃこと潮招き
鯵刺を真似て零戦海の底
大真面目地震学者と梅雨鯰
鵯の越えて神戸のビル谷間
太刀魚をふたつ切りして焼入れる
熊穴へ人は墓穴を掘りにけり
一茶来てかごめかごめの寒雀


橋爪丈博 郵便を書き間違へて二回出す
先生を生徒と間違へブン殴る
けいたいをポッケの中に置き忘れ
友達の噂する間に電車消え
選挙カードボンと池に一直線
雪の中すべらぬようにギャグ放ち
街角の看板の文字昭和なり
病室のエアコン夏の薬なり
英辞書はほこりかぶりて年を越し
春風に誘われし我鼻をかむ


橋本吉博 福風を袂に入れて初詣
前のめり一番駆けの福男
伸びきって猫寝たふりの日向ぼこ
前線といふ名で北へ花だより
仕舞ひかね居間に思案の春炬燵
人知れず月下美人の果てし朝
片陰を譲り合ひして右左
身構えも訛りが解く里の盆
梨の皮厚くむくバカ祖母の伝
枝先に揺れる石榴の笑ひ顔


土生洋子 ふりかけを足して夕餉の弥生尽
父母の臑齧り尽くして御卒業
大の字に寝てドラマ見る夏座敷
縁側にスマホと遊ぶ帰省の子
耕してなんぼの土地に草いきれ
社長出せ電話の向こうハタタガミ
謝罪文トイレでひねる師走かな
終電に響く鼾や牛蛙
猛暑なり裏でゆるキャラ伸びており
飯饐える姑からの長電話


原田 曄 猫がねこ咥へていそぐ春の暮
まだ生きて動く頭よ日脚伸ぶ
万愚節別冊付録正誤表
半身を砂に投げ出す浅蜊かな
かつと口開けて閻魔の睨む蝿
寝かせおく座りたがらぬラ・フランス
大根に道を教はる街の畑
蓮根堀両手もて抜くおのが足
大寒波スマートフォンが身震す
水金地火木土天海独楽回はる


柊ひろこ 風邪の神貧乏神に負けにけり
寒いねと鏡の中の鼻に言ふ
花嫁に愛の空爆しやぼん玉
どれもこれも狂はぬ時計四月馬鹿
捨てらるるゴミにも格差花かぼちゃ
紙魚喰ひの暗号文だワトソン君
猫涼し猫語翻訳機(ミャウリンガル)といふがあり
おもちや売るおもちやのやうな夜店かな
玉葱を刻み泣き方思ひ出す
最愛の敵の背中へゐのこづち


久松久子@ 鶯の四方に一山自慢貌
青みどろの亀洗ふ亀の子束子
まくなぎに顔奪はれて橋渡る
下車駅に寸分違はぬ昼寝覚
二羽なれば幸せかもと残る鴨
節電に幽霊噺きかせけり
噴水や思ひ通りになる男
登山客出払ひ句会始まりぬ
合掌を拍手に変へてお松明
コスプレも十二単に古典の日(11月1日)


久松久子A 今もつてダイヤ縁なく紅葉忌
冬至南瓜反抗の子も歯の立たぬ
水馬死んでも沈めない定め
八十にして五十肩とや山笑ふ
宝舟たよりの息子高鼾
年賀状一斉送信経済庁
ATMに呼び止められて日短
檻の狸木の葉になつて脱獄す
猪垣に囲まれてゐる村一つ
化粧取ればのつぺらぼうの冬の月


日根野聖子 天に何言いつけに行く揚雲雀
豌豆の筋とるファスナーおろすごと
山中の不発弾なり筍は           
かき混ぜてソーダのため息解放す 
わがままは苦味にも似て夏蜜柑 
カラットに換算新米の輝きを
願ひ事は叶はないこと星祭
とんぼうの群れ飛び静寂汚さざる  
秋茄子や嫁がず産まずですみません  
窓閉じてみても浸み込み虫の声


藤岡蒼樹 下萌に影逆立ちのにらめつこ
粗好む仔猫野生にもどしちやを
出る杭の打たれつづくや竹の秋
草食系媼の馬や草毟り
偏食の単身赴任馬肥ゆる
銀河駅人智極めの定時着
秋澄める古池にるる睦む鯉
稲光雷光ニュース消しにけり
親芋に子芋付け持ちごめんやす
落し水土砂の混りの央に立つ


藤原督雄 かんちがいこたつで義母(はは)の手をにぎり
忍ぶ恋春の夜ならばさるぐつわ
ぼら釣りへほえづらもかく律儀もの
太刀魚を千枚釣っても卑怯もの
不義せむと朝出かけたりみそさざい
冬眠の我にわるさをしかけるな
みの虫も別れ話しは苦手なり
行きずりの恋狐火のごと燃えて
寝首掻く秋思抜きさしならぬとは
はれんちも手挟み生きて根深汁


細川岩男 寒の内風呂の温もり骨にまで
ふろふきのトロリ熱さに口火傷
寒詣で春まで待とう爺と婆
初詣孫が手を引き背を伸ばす
初笑い笑えぬ話に苦笑い
冬ごもり猫の如くにおとなしく
生きてるか自問自答の寒さかな
熱っカイロ背に貼付けて寒さ知る
元旦は又一歩かな黄泉の旅
年越しも年初も同じまず安堵


松井まさし ドンファンてふ恋猫囲み町内会
婆の腰より落ちしホカロン目を逸らす
蝿生れ巨乳の谷間に滑り込む
蛇穴を出るや英語で追ひかけられ
山笑ふあちらこちらをくすぐられ
うたた寝の婆に添ひ寝の揚羽蝶
ささやき声癖の古妻枇杷の花
数へ日やわれを置き去る塵芥車
除夜の鐘いつか拾てねば裏日記
初夢やわれに添ひ寝のダリの髭


松尾軍治 御破算に願いましてや去年今年
桜桃忌作家とびこみ水の泡
監督の裏窓のぞく暑さかな
うれしさや尻にしみいる蝉の声
原発許すまじと蟹Vサイン
ターザンのおたけび聞こゆ敗戦日
狼もゾンビと集ふ良夜かな
ラブホテルやじ馬多し昼の小火
家主より犬が顔出す冬館
北の海越路吹雪や吉幾三


丸山紘一 元朝や馬齢を一つ積み増せり
凶の字に慌て又引く初みくじ
みちのくや風花の舞ふ千日目
初場所や艶姿の並ぶ砂かぶり
枯木立哲人のごと実存す
花の蔭袖触る人のみな優し
三つ星の偽装侘びしや秋の暮
遠来の彗星果つる師走入り
吉野家に独り身並ぶ聖夜かな
年玉のベアと引き替え肩叩き


水野直樹 お正月医療費の額集計す
無防備のおなら鳴るなり春炬燵
我もまた恋に萌えたし春の夜
舞ふ花のこの指止まれ時止まれ
夏雲に二本線引く消えもせず
一瓶のビールで酔へる貧乏性
乳母車幼児押すなり夏祭
夏蜜柑ぼとんと落ちて下るだけ
目の前をはらひろはれと落葉かな
離婚して裸一貫除夜の鐘


三橋真砂子 梅の花低きは人の顔集め
啓蟄に遅れて我も穴を出る
昼寝する腹の新聞呼吸せり
放っとけば芯の強い子葱坊主
ゴンドラの唄きかせてるねんねこに
寝ころべば三人官女に傅かれ
燈台の灯がつまみ飲むビール
寝ころべば這ひ這ひのくる帰省中
寒雀ドレミファソソと枝先に
大夕焼仰げば乳房天を向く


向井久美子 王子舞う竜巻ジャンプ冬銀河
愛犬と揃いで散歩ちゃんちゃんこ
チャウチャウに怯えるポチや小雪舞い
霜降りてゴミ出し狸に見送らる
猫耳で社長寿ぐ新酒かな
ホイホイにヤモリ掛かるや夏休み
UFOで橋脚点検川蜻蛉
初売りの友禅小町梅ネイル
我一人手裏剣刺せぬ秋寂し
餅つけど一分もたず杵重し


元田龍一 最悪の日には女房と二人風呂
ため息をついたお前は恋女房
初恋の君も今では孫四人
ボケニャンニャン今日も元気に駒回り
公園のベンチにひとつ猫だんご
成人式整形娘の品評会
なにわ節知らぬ世代の歌合戦
立ち見席頭ひとつが命とり
酔いつぶれ朝の電車にまた遅れ
 


森 泉休 卒寿翁五年日記を買いにけり
御用心洗濯物に冬の蜂
俳句あり故に我あり去年今年
これがまあ拾万円のおせちかな
照れながらパジャマで御慶交わしけり
その続き見たい初夢だったのに
へたくそな書初だけど元気あり
皆帰り妻にも倍のお年玉
うんこのように生まれ長寿や紅ちょろぎ
猫たちに負けてはおれぬ老いの春


八洲忙閑 初夢は英語で見やう塾講師
賀状来る表も裏も愛想なし
お色気の大賞ありて山笑ふ
雪とけて孫の気に入る一茶の句
三尺寝六尺豊か尺貫法
時の日の時知る具かな腹時計
にはたづみ庭には二羽の庭叩き
障子貼る妻の口貼るガムテープ
鼻でふん忠臣蔵や顔見世ぞ
雪女郎よりどりみどり非売品


柳 紅生 正体のなきまで崩れ雪達磨
幾度も天下を望み奴凧
ビル街の山紫水明しやぼん玉
はらわたに一物もなき雪達磨
永き日や噂のひとり歩きして
天国へ召されて行きぬ雪だるま
太陽へ尻を向けては海女潜る
手の平を返したやうに夕立くる
決まり手は勇み足なり子供の日
腑に落ちぬもの浮かび来て春の夢


矢野 薫 百才の夢は整形福笑い
活火山艾草灸する爺の顔
つけ睫毛考えている目高達
朦朧と宇宙を泳ぐ海月かな
空豆のセクシーな腰箸を置く
ヘラクレスへくそかずらとピタゴラス
長十郎ほんにそなたは野性的
物忘れ進化してると敬老日
湯豆腐の薀蓄を聞く削り節
掌の地図じっと見る除夜の鐘


山本賜 @ 鏡餅黙つて座り神となる
竹馬をつくつた話をきかされる
よせばいいのにあの人の冬帽子
うららかや質問ぜめの立話
どれもが自慢スーパーの寒卵
烏骨鶏にかんむり鬼灯にふくろ
枯菊の致し方なく立ちにけり
目立たない色でよかつた蝸牛
きちきちの多分記録的な飛翔
間違えたように大きなお月様


山本賜 A おとなしい犬をひつぱるサングラス
マスクしてマスクの人を訝む
敬老日膝の痛みを分かち合う
気が付いて背すじを伸ばす冬講座
コスモスに呼ばれ離宮の客となる
七人にぴつたり分けたひなあられ
ゴッホが描いてもじやがいもはじやがいも
ウリは月高層階のレストラン
点呼する声嗄れている紅葉狩
北狐観光バスを止めにけり


横山喜三郎 ぬけぬけと居留守をつかふ蟻地獄
老いの家どたばた揺らし夏休み
濡れ場にも水を差しをり老菊師
哲学の道に焼芋頬張りて
古代米とふ新米の届きけり
遊ばせるつもりがはまり加留多とり
マスクしてだれが誰やらすれ違ふ
廃村にぽつねんとして雪女
彼岸会や国政も説く若尼僧
活断層ゆらす乱痴気花筵


早稲田りょう子
退職の背広案山子に下げ渡す
天の川人がをらねば流れけり
蓑虫の蓑裏一点豪華主義
木枯に三枚下ろしにされてゐる
遠き日の貧乏自慢日向ぼこ
よく眠る羊より効く除夜の鐘
初夢のあれは確かに知らぬ人
鶯のほうの長きは慎重派
かはいさうとうぐひす餅を食べぬ子よ






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