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「八木健氏に聞く」
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icon八木健氏に聞く 2008年9月
インタビュー2 八木健氏に聞く
八木健 写真2012年 5月号
滑稽俳句協会会長 八木 健氏 に聞く 43
  紅緑偏「滑稽俳句集」を読み解く 35
                  (聞き手 高橋素子)
高橋 >

 このところ太陽の活発な活動で、地球も異変を来たしているという説が現実として受け止められるようになっています。明る過ぎる太陽、何度も冬戻りする日本列島、所謂俳句らしい俳句を詠む俳人にとっては、戸惑いがちな今日この頃ですね。

春深し微熱の岩に凭れれば  八木健

 という滑稽句を会長の句集「怠けぐせ」に見付けましたが、この春のような寒さでは、岩も風邪をひいてしまいますね。「凭れ」は「もたれ」と読むのですね。
会長 >

 そうです。航空機の機内アナウンスで、よく「椅子の背を元にお戻しください」などと言っていましたね。最近、やっと「背凭れ」と言うようになりました。おっと、話がいきなり横道に入ってしまいましたが、「微熱の岩」というのは、実際は、地球が太陽に温められてのことです。「春深し」の季語によって、そこに春の憂いの存在を感じます。何年も前に作った句なので、すっかり忘れていました。これもまた、春の憂いでしょう。

高橋 >

 ふっふっふ!会長は初っ端から上手い解説をなさいますね。今日も面白いお話が聞けそうです。それでは、本日は前回に引き続き、紅黒ホ「滑稽俳句集」の「秋詠物」の鳴雪の次の句からです。
本日も、ご解説よろしくお願い致します。

 愚庵一句 

其愚には及ぶべからず芋がしら  鳴雪

 学校食道
や闥を排して菌の飯  漱石

 某が銃獵免許

鳥追て案山子のむれに入りたまへ  鳴雪

 下宿や窓前即景
桐の葉と思ひしに無花果の實がなりし  虚子

会長 >

 「愚庵一句 其愚には及ぶべからず・・・」、芋がしらの形を詠んでいます。「芋がしら」は、ごつごつして奇妙な形。しかし、自分の不細工な容貌に比べれば、まだ見良いのではないかと謙遜しています。
 「学校食道 や闥を排して・・・」、「」は三国志などに登場する人物で、劉邦の警護にあたり、山野に分け入って動物を殺して食べたとされ、豪放というより乱暴な人物であったようです。漱石は山野に分け入るになった気分で「闥を排して」つまり扉を開けて、「菌」は「きのこ」のことですから、茸飯を食べたということですね。
 「某が銃獵免許」、何某という者が猟銃の免許を取得したと聞き、「鳥追て案山子のむれに・・・」、案山子の群れ、かつては案山子もたくさんつくられていた。だから、案山子が群れていると見えるところがあったものと思われます。
 「下宿や窓前即景」、下宿の窓から見た風景を詠んだのです。「桐の葉と思ひしに・・・」、葉の形を見て、桐の木だと思っていたら、無花果の実がなりましたよと、いう句ですね。そういえば葉の形はよく似ています。

高橋 >

 なるほど、(ハンカイ)は漢書の面白い勇将なのですね。漢書に「排闥直入=闥を排して直ちに入る」という言葉がありますが、闥(タツ)は宮中の小門や、くぐり門を意味する言葉ですね。それでは、次の句もご解説よろしくお願い致します。

 上野初謫W覽會

女郎花に鶉を画く陳腐なり  虚子

 露月送別  

芒わけて一路を得れば賢ぢやとよ  虚子

 訪愚庵
渋柿はみんな鴉に喰はれうぞ  露月

 紅腰I月二人の寫真を見る
露月は黒き鬼灯の如く  紅

 は白き蕃椒に似たり
秋のいろあかき糸瓜を画のにかかむ  子規

会長 >

 「上野初謫W覽會 女郎花に鶉を・・・」、女郎花は鶉の羽の模様に似ているので、「付き過ぎ」だ、陳腐だと言っています。
 「露月送別 芒わけて一路を得れば・・・」、立ちはだかる薄を前にして、「道」をつくりなさい。薄を分けて行くのです。賢い者はきっとそのようにしますと、言う意味ですね。
 「訪愚庵 渋柿はみんな鴉に・・・」、「喰はれうぞ」は「食べられてしまうだろう」という意味です。
 「紅腰I月二人の寫真を見る  秋のいろあかき糸瓜・・・」、赤い糸瓜は秋の色です。それを絵に描きましょうと言う意味ですね。

高橋 >

 五行説では「白秋」と言われていますが、子規は、赤く紅葉した糸瓜を秋の色と言っているのですね。ところで、これで秋の部は終わりです。
 紅黒ホ「滑稽俳句集」三十五回目にして、春・夏・秋と三季節部門がやっと終わりました。それでは、心を新たにして、いよいよ最終の「冬の部の天文」から頑張りたいと思います。今まで通り面白くて為になるご解説よろしくお願い致します。
冬・天文の部、季語は「時雨」です。

大根の大根になる時雨かな  尚白
しぐれけり走入りけり晴にけり  惟然
傘で犬と仕合や村時雨  雌口
油断して時雨に逢ひし紙衣哉  只吹
傘借るは世話と軒借る時雨哉  也有
二三枚繪馬見て晴るしぐれ哉  也有

 「仕合」は試合のことですね。「紙衣」は「かみこ」と読み、和紙で作った衣服のことですね。沢山の句が並びましたが、ご解説よろしくお願い致します。
会長 >

 「大根の・・・」、これは、時雨が大根を太らせる。時雨があればこそ、大根が大根らしくなるということですね。
 「しぐれけり・・・」、しぐれは降ったかと思うといつの間にか止んでしまうものです。「走り入り」は、家の中にということ。走り込んだら晴れてしまった、ということですね。いかにも時雨らしいです。
 「傘で犬と・・・」、子どもですね。時雨が晴れて、傘の使い道は犬との対戦という可笑しい句です。
 「油断して・・・」、「紙衣」は、腰の強い和紙を糊で張り合わせ、着物仕立てにしたもので、紙子とも書きます。糊は江戸時代にはワラビの根からとったものです。今でも作られていますが、今は贅沢なお洒落ですね。句では、雨は降らないと思って油断して・・・ということですね。
 「傘借るは・・・」、時雨に遭遇して傘を借りればいいのだが、それも世話、つまり面倒と、軒を借りて雨宿りしたのですね。借りたのが傘でなく軒という滑稽です。
 「二三枚繪馬見て・・・」、神社の境内でつくった句と思われます。時雨は短時間で止むものですから、絵馬の二三枚読む程度で雨が上がったといっていますね。今回はどの句も分かりやすい滑稽ですね。

高橋 >

 その様ですね。「時雨」は昔も俳人に愛されている季語と見えて、まだまだ詠まれていますよ。

化さうな傘か古寺の時雨かな  蕪村
又嘘を月夜に釜の時雨かな  蕪村
人は寝て鼠の顔にもるしぐれ  成美
しぐるるやあれ見やしやんせ月に雲  虚子

会長 >

 「化さうな・・・」、これは、古寺で借りた傘が破れ傘だったので、「化けそう」だと皮肉を言っているのですね。
 「又嘘を・・・」、「月夜に釜を抜かれる」ということわざがあります。「抜かれる」は、盗まれるという意味。明るい月夜だから盗まれる心配はないだろうと思っていたら、大事な釜を盗まれてしまうということですね。蕪村は、このことわざを句に詠みたかったものと思われます。句では、「又嘘を」としています。「釜は月夜に盗まれるもの。月夜ではないから盗まれるはずはない」と、詠んでいますが、「抜かれる」は、中の「飯」を抜きとることを言うのではないか。そう思います。
 「人は寝て・・・」、時雨の夜の静けさを詠んだものです。「鼠」は「濡れ鼠」という表現があるようにびっしょりと濡れる様子ですから、「しぐれ」の降り止まぬ様子を「鼠」を使って詠んだのです。
 「しぐるるや・・・」、「大利根月夜」という歌があります。♪あれを御覧と指差す方に♪という歌い出しの歌です。句は、この歌より前の時代と思われますが、「あれをご覧なさい、月が雲で隠れつつありますよ。ひと降りするでしょう」、と言っています。

高橋 >

 会長が、苦労して入手されたこの貴重な古書を初めて目にした時は(インタビューH)、読破などとても無理だと思っていましたが、何時の間にか、春夏秋の部と、もう四分の三が過ぎているのですね。 
 会長が以前におっしゃって下さいました様に、「紅高フ句集を解読することで、江戸から明治にかけての滑稽句を知り、この句集がいつか私たちの血となり肉となる」ことを願います。笑っている内に、知らず知らず学習出来る素敵なご解説、今後ともよろしくお願い致します。

会長 >

 米沢藩主・上杉鷹山の歌、「為せば成る 為さねば成らぬ何事も 成らぬは人の為さぬなりけり」ですね。あと残すところ四分の一で、第三コーナーを回ったところ。ホームストレッチに入り加速しています。早く、いえ、ゆっくり走りましょう。

高橋 >

 スポーツ中継風になりましたね。おしまいは、やはり、虎造節で〆ていただきませんと・・・。

会長 >

 はい、はい、承知しました。 ♪木枯らしやああああ 文字は凩とも書いて風に頬被りさせえてゐるううう 思いがけずも時雨ればああ 紙衣を脱いでえええ 濡れええ鼠いいいい♪