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八木健今月の八木健

    八木健の300句
1
新玉や見覚えのある猫に会ふ
愛犬のおならしてゐるキャムプかな
Tシャツのサイズは青がエルなんです
しょうがない奴でも生姜掘るでしょうが
なつかしのお味噌が届き年の暮
ハンカチの持ち主を問ふ枯野かな
鍋底の蒟蒻隠れておでんかな
節分やうぶな青鬼赤くなる
豆井戸に落ちて人魚となりし夏
わたくしは橇ですどうもすいません


11
そばかすの女立つ蕎麦の花のそば
蝉殻をぬぎつつあればセミヌード
モーグルといへど潜らぬスキー板
兼題の栗に苦吟のイガ痛む 
台風のあとの一家のお片付け
チルドレンとは冷凍会社の阿波踊
クツワムシ裸足のアベベのやうにかな 
秋田小町コシヒカラセて稲を刈る
電柱でござると威張り寒烏
野分晴音にするならあつけらかん


21
紅葉且つ散る樹木にもながら族
嫁が君里帰りしてそれつきり
頬杖の何本も要る春愁
丸めても畳むと言へり花筵
風の兄弟長男が春一番
新宿区渋谷区千代田区みな春めく
横笛の首たてに振る秋祭
威銃村いちばんの空威張り
文字通り丘を引きずる蚯蚓かな
尺蠖やメートル法の世を生きる


31
串の字は象形文字よおでん食ぶ
蛙てふ文字畦の字に潜む 
蟾蜍字も難しき面構へ
立冬や尺貫法で五合呑む
ひとつでも十分辛い唐辛子
野原大学音楽学科草笛奏法研究生
音量調節絶対不可能蝉時雨
杉花粉飛散花粉症悲惨
薫風量産全山花蜜柑
寒梅の白告白とおなじ白


41
なんでせう花火が簾にかはる実は
エジプトの首都で使ひし暖房具
海原をもちあげてゐる鯨かな
てのひらをくまなく調査天道虫
雲の峰芯のあたりは固からむ
折れば血の出さうな色の寒椿
木枯は送電線に来てとまる
人声に聞き耳を立て水芭蕉
ジャンケンの三椏どれもチョキを出し
入学の子にランドセルとりつける


51
春一番きつとさうだと思つたの
かき氷どの部分からくずさうか
あんたはんなんはや蜃気楼出とがやぜ
うめですかさくらですかこの裸木は
片陰を行けばいいのにあのひとは
お引越スミレは移植鏝に載り
一刀両断大根のふくらはぎ 
逃水は神のお洩らしかも知れぬ
春の田の空は燕に所有権
切り分けし西瓜の塔に種の窓


61
引力の平等藤の房垂れる
秋刀魚の解剖お箸のメス揮ひ
アイロンをかけハンカチの過去を消す
マフラーの巻きかた案外難しい
芋虫の美人にあらむ緑濃し
うなぎ焼く栄養の音滴らせ
ばらまいたやうに昼寝の大家族 
初氷はがきにうれしさうな文字
呪と言ひてバターの溶ける薬喰ひ
鮎喰ひの上手なひとと下手なひと


71
夏服の去年の皺を着て歩く
濡れ衣となるが定めの出初式
春昼の仔豚十匹同じ顔
人間はことごとく敵子猫咬む
どしゃぶりとなりたる蝉の時雨かな
秋天をいけどるやうに投網打つ
肘張つてこの池を出ずあめんぼう
怠けぐせ治らず春の海のたり
一匹の蚊にストーカーされてゐる
幾何学が好きで三椏やつてます


81
終生を夜勤に励み油虫
大男コガタアカイエカに悩む
ソーメンや樋の清流のりこなす
失踪の前歴のあるかぶと虫
漂へる電気くらげに部品かな
押しあいへしあいわさび田のわさびたち
蟻同士何を話したのでせうか
肩の蠅家来のやうについて来し
とんぼうの空中給油してをりぬ
盆の窪あたりに着地風邪の神


91
布引の滝縦縞でありにけり
大根を地球と奪ひあつてゐる
春愁のとどのつまりの大あくび
シャワー浴ぶ祈るかたちに立ち尽くし
みづうみのおもてを汚し大夕立
残雪の左の脚が抜けました
月光に解く鍵束の知恵の輪を
遮断機のもちあげてゐる秋の空
穴だけの眼に睨まれて目刺食ふ
頭を低くして蝉時雨くぐりけり


101
飛ぶ燕地に条痕をつけにけり
虫入れて重くなりけり虫の籠
トタン屋根光らせ薄暑製造所
吐く息の白きを牛の舌舐める
人間を蹴る馬のゐて天高し
しまひにはからまれてゐる初電話
西瓜撲殺豪華客船の上甲板
薫風と言ふべし厩舎から吹くも
声のほか糞も降らせる百千鳥
カレー派と寿司派で揉める子どもの日


111
良夜なり男三人諍へる
相談をうけて夜長を使ひきる
少年のゆびに撃たるる揚雲雀
濡れ場なりプールの更衣室もまた
低姿勢なり合図待つスケーター
酒断ちの地蔵の脇の酔芙蓉
クレーンのびる秋天の途中まで
私のどこかに殺意とりかぶと
鯉の耳ぴくりと動く春の雷
ひきぬけば家系図のやう落花生


121
飯食つて行方不明の帰省の子
みずからを死体遺棄して油蝉
肩の蠅家来のやうについて来し
窮屈をものともせずに紙魚の恋
村いちばんの美人も彼岸墓の中 
土用浪飛沫を空に置き去りに
残像を岩に置きけり青蜥蜴
げんげ田に寝しひとがたの残りけり
ピアニストピアノの上に薔薇を置く
○△□に灯りキャンプ場


131
凹凸の凹に翳ある春の泥
逢引の目深に被る夏帽子
熱燗や鼻で暖簾をこぢあける
赤とんぼゆびをはなれる
あめんぼう等身大の影を踏む
あのひとは時間にルーズ木の実降る
石ころのふたつ手にある休暇明
息白く英会話教師なにか言ふ
芋炊の汁短冊にこぼされんよ
犬の名を考へてゐる春の風


141
うぐひすに庭をとられてしまひけり
炎天に化石のさかな口ひらく
縁談のまとまる気配草の餅
お花見はお見合だつたかも知れぬ
河原の痩せコスモスの咲きにけり
首たてにふつて納得ゆかぬ驢馬
草笛の鳴らなくなつてしまひけり
子の便り読む五月の畦に立ち
恋猫に包囲されたる一軒家
歳末の玩具売場の子をはがす


151
新宿区渋谷区千代田区みな春めく
食道をずり落ちてゐる寒卵
巣の燕最大限に口あける
そこらぢゆうの光あつめて福寿草
滝音を離れ俗世の人となる
たんぽぽのわた毛を吹けば芯残る
朝刊の見出しに笑ひバナナ剥く
散るさくら一途に先をあらそへる
土の雛美男美女とは言ひがたき
つかひ捨て懐炉発車まぎはに貰ひたる


161
連尿の会話のはずみ天の川
妻こわい地震も火事もこわくない
鉄塔が気に入つてゐる寒烏
鉄の鍋月に傾け磨きけり
なぜ空は青いのだらう籐寝椅子
なにがしの重さありけりしやぼん玉
なにやらを浮かべ夕立あとの川
二分咲きか三分咲きかをあらそへる
のどのおくまであきかぜ
春の月歩幅にゆれてをりにけり


171
早う来てからだ炙れと炉辺の祖母
初鰹どんと俎板おしつぶす
俳句があればなんにもいらないお正月
花あふち真闇の一部分照らす
引越の荷の中に寝て明易し
ふたあつの日傘ひとつはよく動く
蓑虫に聞かれてをりし立ち話
もぎたての枇杷です少し固いです
もういいと言ふのに食へと草の餅
檸檬ひとつ傷つけ旅の朝はじまる


181
吾と眼の合ひたる金魚そつぽ向く
綿虫を数へることは出来ません
炎天の細片蔭に身を嵌める
炎天の野球部用の薬箱
木枯らしさん裏木戸をこはさないで
ストーブで炙るからだの裏表
とつくりのセーターを編む首つ丈
二辺より一辺近し刈田道
ハンモック僕は宇宙のひととなる
二三匹群よりはづれ鰯雲


191
白菜の脇に白葱すべり込む
ふともものはちきれさうに風薫る
深沓をギブスのやうに穿いてゐる
なんでせう花火が簾にかはる実は
飯食つて行方不明の帰省の子
メル友のなかなか寝ない夜長かな
横笛の首たてに振る秋祭
ジャパニーズ引き込むキングサーモンの馬鹿力
アイロンをかけハンカチの過去を消す
秋田小町コシヒカラセて稲を刈る


201
一刀両断大根のふくらはぎ
画用紙の半分以上秋の空
寒月の監視下にある雪達磨
少年のゆびに撃たるる揚雲雀
しまひにはからまれてゐる初電話
秋天をいけどるやうに投網打つ
石鹸玉爆ぜて大空濡らしたる
西瓜撲殺豪華客船の上甲板
大根を地球と奪ひあつてゐる
チルドレンとは冷凍会社の阿波踊


211
つめたいおびいるとびいるにおをつけて
ひまはりのバックの空をぬりたくる
箱眼鏡角ばつてゐる顔を嵌め
裸子を取り逃がしたる警察官
ひとところ骨折をして秋団扇
襖四枚どこかへ隠し夏座敷
三日月の刃の切れ味は抜群ぞ
みずからを死体遺棄して油蝉
村いちばんの美人も彼岸墓の中
紅葉且つ散る樹木にもながら族


221
モーグルといへど潜らぬスキー板
嫁が君里帰りしてそれつきり
ラジオ体操第二にうつる花蜜柑
油蝉樹皮の一部としてありぬ
一匹の蚊にストーカーされてゐる
威銃村いちばんの空威張り
けんかせぬやうどの地蔵にもみかん
この人の口は大きいさくらんぼ
笹鳴きの影は♪のやうにかな 
石鹸玉はじける俗世映しては 


231
呪と言ひて焚火は水を恨むなり
手編みマフラーお誕生日の首絞める
どの鳩もうなづき歩く小春の日
ねこじぇらし猫にも嫉妬の心あり
丸めても畳むと言へり花筵
むずむずとしてものの芽になりゐたる
眼つき鋭し笑ひゐるサンタさん
色黒を褒められてゐる黒目張
うなぎ焼く栄養の音滴らせ
今日もまた外野を守り赤とんぼ


241
銀漢や真闇の海に尾を浸し
ジャンケンの三椏どれもチョキを出し
諸葛菜未だ中国名名乗る
甚平を着て人間が軽くなり
スキー板穢る真白なるものに 
たかが深爪それが春愁
どの花もほめてやりますチューリップ
逃げ水は神のお洩らしかも知れぬ
人間を蹴る馬のゐて天高し
布引滝よりほつれ水の糸


251
蜂の巣に近づいてゐる宇宙服
久しぶりにおの字をつけて暖かし
踏まれてもなほ熟睡の昼寝人
頬杖の何本も要る春愁
マラソンの最後の子にはビリ等賞
蓑虫のデートは揺れつぱなしなの
茹であがりけり川蟹の毛むくじやら
秋日和鶏をいぢめる鶏のゐて
嘘つきの喉にも仏桃の花
打ち水の一枚宙にひろげたる


261
お引越スミレは移植鏝に載り
風の兄弟長男が春一番
カレー派と寿司派で揉める子どもの日
幾何学が好きで三椏やつてます
恐竜の子孫の蜥蜴岩を這ふ
切り分けし西瓜の塔に種の窓
口数の少ない人で桃の花
薫風と言ふべし厩舎から吹くも
声のほか糞も降らせる百千鳥
するするはとかげのためにあることば


271
青春の一ページてふ紙魚の恋
相談をうけて夜長を使ひきる
跳躍は得意の種目雨蛙
人間はことごとく敵子猫咬む
野原大学音楽学科草笛奏法研究生
野分晴音にするならあつけらかん
はたきかけるみたいにせはしてふてふは
初蝶やひかりの欠片撒き散らし
羽抜鶏羽抜けの影を連れ歩く
春の田の空は燕に所有権


281
引潮の磯を調べる春の蟹
肘張つてこの池を出ずあめんぼう
人声に聞き耳を立て水芭蕉
芽柳の先やはらかく川面掃)く 
ややあつて音をひきずり遠雪崩
ゆずの実の軽さをてのひらにのせる





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