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山本賜 (やまもと たまい)
1 もう泳ぐことはない波をみてゐる 2 どの薔薇も嗅いでみたくてここはパリ
3 太陽が月が立ち寄る蜜柑山 4 子が母にうつ天瓜粉立ちのぼる
5 大根を目利きのやうに選びけり 6 ルノアルの豊頬紅し初暦
7 熱っぽく初富士のこと語りけり 8 日に出せばにこにこにこと福寿草
9 掛け軸の読めぬ字を読む旅はじめ 10 大真面目不真面目みんな葱坊主
11 初黄蝶七六ホーン渋谷駅 12 すみれ草ここは八里のどのあたり
13 春風やへんなわたしが目を覚ます 14 毀れさうなものに子猫と幸福と
15 吹き溜まるさくらさくらの色のまま 16 春眠の時をりしやんとする背筋
17 暖かや麒麟の首のすべり台 18 百舌鳥坐れ坐れと石がある
19 王冠を編んで頭上にクローバー 20 薔薇の芽や私の中に躁と鬱
21 かう跳んで御覧なさいと蛙跳ぶ 22 柔らかし若葉の中に棘の木も
23 母の日のごろりとなれる家族かな 24 縄跳びがいきなり出来て風薫る
25 雑巾を初夏のバケツに遊ばせる 26 六月の花嫁健康さうな肩
27 雨蛙呼ばれたやうに控へ居る 28 蜥蜴出てかなりの距離を走りけり
29 脱いだ靴うしろに投げて夏の川 30 ふるさとのすばやさ蟹は紅ぞ
31 舟虫をびっくりさせてしまひけり 32 げに赤く河馬の目光る暑さかな
33 日傘ごとメアリーポピンズ駅に消ゆ 34 ひまでひまで芍薬爆発したくなる
35 玄関に髪切虫の一夜かな 36 羽抜鶏ついてゆくのも羽抜鶏
37 やもりゐる昔話のやうにゐる 38 踏みさうになりし蹊蜥のみどりかな
39 東京の月も綺麗と返信す 40 秋風や砂場にひとつ砂の山
41 草の花憶良の草もまじりけり 42 猪の帰つた裏山かがよへり
43 行く秋の落とし子みたいな雲だなあ 44 この辺り恋文横丁冬日和
45 寒すずめ人工芝につまづけり 46 トラックがもの言う寒さ曲がります
47 遊ぶ虫寝る虫死ぬ虫花八つ手 48 景品の醤油重たし十二月
49 おもしろいやうに売れてる蒸饅頭 50 年の暮同じ速度の回り寿司



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