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井口 寿々子 (いぐち すずこ)
1 未知の日へ心ときめく初暦 2 煩悩の尾にもほのぼの初明り
3 誠実に生きたつもりよ福寿草 4 亡母の帯ぽんと叩いて初鏡
5 ほろ苦き想ひ出いくつ蕗の薹 6 ときめきを忘れて久し二月尽
7 明日の事は明日考へる日向ぼこ 8 雪の朝心の錆の失せにけり
9 夕星の一つ浮かびて雁帰る 10 いぬふぐり夕べの星の雫かも
11 ひなの宵北京みやげのジャスミン茶 12 夜も更けてかすかに雛の京言葉
13 春宵やピエロが踊るオルゴール 14 春隣右脳の感度にぶりがち
15 携帯の指が物言ふ街うらら 16 わが吐息牡丹くづしてしまひけり 
17 落人の笛の音想ふ早苗月 18 藤の花揺れて心の彩を織る
19 フラココの軋みにしばし身を任せ 20 遠き日の夢をさがしにシャボン玉
21 不可もなく可もなく生きて桐の花 22 短夜や閉ぢては開ける旅鞄
23 夕焼の雲ゴーギャンの筆遣ひ 24 更衣しても昨日をひきずりぬ
25 大夕焼今日と云ふ日を包み込み 26 どの色に夢を乗せやう今日の虹
27 日盛りのピエロ哀しきチンドン屋 28 天上の青の溶け出す大夕焼
29 蜘蛛の囲の真珠こぼすな風吹くな 30 人生に栞をはさむ夜の秋
31 退院の乾杯はお茶江戸切子 32 里人の優しさに触れ萩に触れ
33 老らくの身にも恋風こぼれ萩 34 赤とんぼ舞へば童心よみがへる
35 むづかしき話のあとの栗ごはん 36 旅人のつぶやき拾ふ蓼の花
37 薪能果て幽玄の後の月 38 万葉の佳人に通ふ萩の風
39 口ついて出る相聞歌今日の月 40 言の葉の帰るすべなし返り花
41 こぼれ萩言はでもがなのひとり言 42 枯蟷螂斧もたゝまずさまよへり
43 一刻を詩人となりて落葉踏む 44 童謡の短調かなし初時雨
45 思ひ遣りを座右の銘に竜の玉 46 鵙の声なまけ心の螺子を巻く
47 身ぎれいに老いたきものよ石蕗の花 48 それなりに生きて余白の冬銀河
49 熱きもの懐に抱き山眠る 50 翌檜のままの幸せ去年今年



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