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前川敏夫 (まえかわ としお)
1 人の欲束なす絵馬や初天神 2 本人は寝てばかりをり初端午
3 香水の香が先に来て現はるる 4 着ぶくれてピカソの裸婦を見てゐたり
5 別れには愁嘆場なし猫の恋 6 書類ひとつ不備で出直す納税期
7 日差しより人目を厭ひ秋日傘 8 正座して五分ともたず利休の忌
9 ピラカンサ鳥がうんざりしてをりぬ 10 冬ぬくしめんだうくさげに逃げる鳩
11 胸焦がす思ひは知らず雪女郎 12 往復の無駄を省くか残る鴨
13 ダービーや鼻の差といふ大きな差 14 沢蟹の後ろを見せず遁走す
15 保険屋に命の値踏みされて冬 16 一線を軽く飛び越え猫の恋
17 衆目の中の密会恋蛍 18 戻る巣にやすらぎの無し親燕
19 不眠症炬燵の中でよく眠り 20 秋肥ゆる人のパセリも平らげて
21 一組といふより一団七五三 22 初天神合格絵馬になき定員
23 尻に火の付くほど多忙にして焚火 24 女房の罠かもしれず落し文
25 譲り合ふことは教えず親燕 26 春寒の古壺かけらの寄せ集め
27 通帳にたつた一行夏季手当 28 生身魂女の武器をまだ使ひ
29 煮炊きされあげく食器になる鮑 30 籠絡に色香使はず女郎蜘蛛
31 研修といふには日焼していたり 32 影が来て噂を止める日向ぼこ
33 躊躇してゐしと思えぬ踊りぶり 34 目の合ひて素通りできず赤い羽根
35 健康をグラフにされて年詰まる 36 明らかに定員オーバー宝船
37 骨董とガラクタとの差春の塵 38 期待ほど美形にあらずマスクとり
39 海月睦む嘘も隠しもできぬ仲 40 身に覚えありて笑へず初みくじ
41 天敵と嘆きをわかち涅槃絵図 42 捩花より見れば世間が捩れをり
43 五月闇さだかに見えぬのが秘仏 44 夏季講習休憩時間になりて醒め
45 相槌を打てば同罪藪からし 46 手話になき内緒話や秋うらら
47 急な別れコートのボタン掛け違ひ 48 睦言も怒鳴り合ふやう滝の前
49 心まで許してをらず竹夫人 50 人妻に抱かれ上手の春キャベツ



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