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井口夏子 (いぐち なつこ)
1 束の間の恋束の間の夏の果て 2 雑草われ大和撫子にはあらず
3 秋の蝶天の高さを知らず飛ぶ 4 戻るなら白い梔子咲くやうに
5 蜜蜂の羽音の中の握りめし 6 寝つかれぬ吾にちちろの鳴きつづく
7 泣き飽きててのひらに受く牡丹雪 8 凍てつきし朝一番の空気吸ふ
9 儚きもの吹かる菫も幸せも 10 しんじゃがを掘りに田舎に帰ります
11 てのひらになみだのやうな牡丹雪 12 黄葉の吹かれて木々のページ閉づ
13 揺れる蓑虫こもる蓑虫山の昼 14 吾は蓑虫宙吊の生涯よ
15 芽吹くとは力と力のぶつけ合ひ 16 仕合せは心の持ちやう桜草
17 でで虫は考へすぎて進めない 18 サボテンの性よ深夜に咲きほこる
19 朝顔や言葉を忘れたる母よ 20 朝になり蛍はただの蛍なり
21 暗闇に糸瓜の孤独ぶらさがる 22 ネオン消え残される街の冬ざれよ
23 凍蝶に朝の光の矢が届く 24 夜の扉ノックしてゐる木の芽雨
25 鬼やらひ疑ひもてば切りもなし 26 水鳴つて輝きどほし猫柳
27 風騒ぐ麦の黒穂の抜かれれば 28 五月なり日々に広がる心の空
29 顔はどこ手足もないねなめくぢさん 30 みづぐるま凉しすずしとみづくぐる
31 紫陽花の心変はりを許します 32 秘め事のありてやどかり閉ぢ籠もる
33 櫛ほどの細き三日月寂しかり 34 啓蟄や吾もトンネル抜けだせり
35 石蕗の花海が見たくて伸びあがる 36 冷やかやひろびろとある畳の間
37 夢うつつ覚めてもうつつ風邪の床 38 いくつもの夢重なりて風邪の床
39 舞ふ枯葉伝言リレーしてをりぬ 40 空っぽの魂鳴らす凩よ
41 凍蝶よ頑張らなくていいのだよ 42 一枚の落葉表の色と裏の色
43 老いたれば心は丸し露のごと 44 鶯がすきすきすきとないている
45 ひとりぼっち一番星も三日月も 46 はんざきの動かざること石の如く
47 睡蓮の花が開いて閉ぢるまで 48 下界の喜怒哀楽に月痩せる
49 芽吹く木よ力いつぱい生きる木よ 50 たましいのぬけしてでむしわれのてに



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