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日根野聖子 (ひねの しょうこ)
1 あかぎれの深き傷もつ鏡餅 51 大切に美人の案山子抱へらる
2 秋暑しやる気の溶けてしまひたる 52 タイムカードの音の眠たげ初仕事
3 秋の蝿考へ考へ飛びにけり 53 竹馬の暴れてうまく乗りこなせず
4 兄の分ひとつ多くて柏餅 54 ただ眠ることに専念裸木は
5 アラームに眠り砕かれ冬の朝 55 石蕗咲くや古びし庭に溶け込まず
6 主待つ入れ歯語らず敗戦日 56 手の皺は滑走路なりてんと虫
7 あれそれで会話成立豆ご飯 57 闘牛の額に詰まる負けん気よ
8 勇ましい顔最前列の目高らは 58 長き夜やテレビ観るでも消すでもなし
9 一日の怒りほぐるる栗ご飯 59 鳴き声といふより読経法師蝉
10 いないいないばあと顔出し蕗の薹 60 夏痩せて眼鏡大きくなりにけり
11 居るだけの人にも夜食配らるる 61 何考へているんだらうかこの金魚
12 受け答へよそゆきとなり成人日 62 ニートてふ若者のゐて勤労感謝の日
13 美しく死ねさうな気がする鳥兜 63 苦々し思ひを腹に目刺かな
14 大あくびする猫のゐて仏生会 64 猫の子や酔客の愚痴聞かさるる
15 大大根床に寝かせるやうに置き 65 熱湯に染め直されし菠薐草
16 大粒の涙のやうに椿落つ 66 喉を塗り忘れたらしい青蛙
17 お蚕や無口な口のよく動く 67 伸び上がつたり屈みこんだり焚の火
18 おしやれとは着膨れぬこと冬薔薇 68 裸木や空のあちこち突き刺して
19 重さうな後頭部なり獺祭忌 69 初詣祈願項目仕分けして
20 陽炎や高層ビルを歪めたる 70 はらはらと泣くやうに散り山茶花は
21 かさぶたのやうに剥がされ薄氷 71 春荒や山河の位置のずれるほど
22 髪洗ふ名画の裸婦になりきつて 72 春の来た方を見てゐる目張かな
23 関節のどこも硬くて茄子の馬 73 美人にはなれぬ運命福笑ひ
24 北風に首すくめゐるキリンかな 74 微動だにせず諦観の牛蛙
25 きっとため息ラムネの泡ぶくは 75 一晩中暴走北風の一味
26 茎立つや上昇志向のまつすぐに 76 平等にせむ栗飯の栗の数
27 靴の先からバッタ飛び出す草の中 77 風船や児の目盗んで逃げにけり
28 首一つ出て片陰の寸足らず 78 富士額だけが自慢よ桃の花
29 蜘蛛の子や避難訓練通り散る 79 仏像の頬のゆるぶや桜餅
30 暗がりをかき混ぜてゐる踊りの手 80 太りすぎくらいがよろし雪達磨
31 決心や青梅ほどの大きさの 81 プレゼントのリボン大げさクリスマス
32 言語不明瞭風呂吹大根ほほばれば 82 平凡は単純なこと大根干す
33 鉱石の光を放ち枇杷の種 83 方言の丸出しのまま芋煮会
34 児の嘘を大げさに聞き万愚節 84 ぼうたんや堂々風に揺れてゐる
35 この顔で一年よろしく初鏡 85 舗装路を水玉模様にして時雨
36 ゴム製にあらむ蚯蚓のくねり方は 86 凡人の顔なりサングラスはずし
37 これ以上の省略は無し枯木かな 87 ぼんやりは気のせいじやない黄沙降る
38 強面にマスク小さくのりにけり 88 未完てふ果汁つまりし青蜜柑
39 寂しくはあらず部屋に一匹蚊のをれば 89 右回し左回し誰か待つてる春日傘
40 自己主張なんだか愚痴だか蝉の鳴く 90 自らを分解山茶花散る時は
41 滴りの形のままの氷柱かな 91 身の程のものを負ひけり蝸牛
42 下萌や地球の産毛となりにけり 92 蓑虫やつまめば命やはらかき
43 終戦日メタボあまたのこの国の 93 もう一つ食べようか止めようか桜餅 
44 春菊の香や垂直に立ちゐたる 94 もぞもぞの音のしてゐる啓蟄や
45 心身のこはばり解け寒の明け   95 やる気有る無し全く不明の海鼠かな
46 甚平を着て休日の顔になる 96 柔らかきことの無防備青芋虫
47 好きな文字拾ひ食ひしてきららかな 97 指先で揺らし蓑虫らしくする
48 節分や赤鬼青鬼胸に飼ひ 98 よく喋る人の扇子のよく動き
49 総身にまぶし新緑の風なるよ 99 夜寒なり急須の湯気を注ぎ分ける
50 双蝶の時々口づけしていたる 100 わだかまりほどけぬままや枯葎


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