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あかぎれの深き傷もつ鏡餅 |
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大切に美人の案山子抱へらる |
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秋暑しやる気の溶けてしまひたる |
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タイムカードの音の眠たげ初仕事 |
3 |
秋の蝿考へ考へ飛びにけり |
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竹馬の暴れてうまく乗りこなせず |
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兄の分ひとつ多くて柏餅 |
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ただ眠ることに専念裸木は |
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アラームに眠り砕かれ冬の朝 |
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石蕗咲くや古びし庭に溶け込まず |
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主待つ入れ歯語らず敗戦日 |
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手の皺は滑走路なりてんと虫 |
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あれそれで会話成立豆ご飯 |
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闘牛の額に詰まる負けん気よ |
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勇ましい顔最前列の目高らは |
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長き夜やテレビ観るでも消すでもなし |
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一日の怒りほぐるる栗ご飯 |
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鳴き声といふより読経法師蝉 |
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いないいないばあと顔出し蕗の薹 |
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夏痩せて眼鏡大きくなりにけり |
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居るだけの人にも夜食配らるる |
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何考へているんだらうかこの金魚 |
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受け答へよそゆきとなり成人日 |
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ニートてふ若者のゐて勤労感謝の日 |
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美しく死ねさうな気がする鳥兜 |
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苦々し思ひを腹に目刺かな |
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大あくびする猫のゐて仏生会 |
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猫の子や酔客の愚痴聞かさるる |
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大大根床に寝かせるやうに置き |
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熱湯に染め直されし菠薐草 |
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大粒の涙のやうに椿落つ |
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喉を塗り忘れたらしい青蛙 |
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お蚕や無口な口のよく動く |
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伸び上がつたり屈みこんだり焚の火 |
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おしやれとは着膨れぬこと冬薔薇 |
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裸木や空のあちこち突き刺して |
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重さうな後頭部なり獺祭忌 |
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初詣祈願項目仕分けして |
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陽炎や高層ビルを歪めたる |
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はらはらと泣くやうに散り山茶花は |
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かさぶたのやうに剥がされ薄氷 |
71 |
春荒や山河の位置のずれるほど |
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髪洗ふ名画の裸婦になりきつて |
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春の来た方を見てゐる目張かな |
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関節のどこも硬くて茄子の馬 |
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美人にはなれぬ運命福笑ひ |
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北風に首すくめゐるキリンかな |
74 |
微動だにせず諦観の牛蛙 |
25 |
きっとため息ラムネの泡ぶくは |
75 |
一晩中暴走北風の一味 |
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茎立つや上昇志向のまつすぐに |
76 |
平等にせむ栗飯の栗の数 |
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靴の先からバッタ飛び出す草の中 |
77 |
風船や児の目盗んで逃げにけり |
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首一つ出て片陰の寸足らず |
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富士額だけが自慢よ桃の花 |
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蜘蛛の子や避難訓練通り散る |
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仏像の頬のゆるぶや桜餅 |
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暗がりをかき混ぜてゐる踊りの手 |
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太りすぎくらいがよろし雪達磨 |
31 |
決心や青梅ほどの大きさの |
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プレゼントのリボン大げさクリスマス |
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言語不明瞭風呂吹大根ほほばれば |
82 |
平凡は単純なこと大根干す |
33 |
鉱石の光を放ち枇杷の種 |
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方言の丸出しのまま芋煮会 |
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児の嘘を大げさに聞き万愚節 |
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ぼうたんや堂々風に揺れてゐる |
35 |
この顔で一年よろしく初鏡 |
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舗装路を水玉模様にして時雨 |
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ゴム製にあらむ蚯蚓のくねり方は |
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凡人の顔なりサングラスはずし |
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これ以上の省略は無し枯木かな |
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ぼんやりは気のせいじやない黄沙降る |
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強面にマスク小さくのりにけり |
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未完てふ果汁つまりし青蜜柑 |
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寂しくはあらず部屋に一匹蚊のをれば |
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右回し左回し誰か待つてる春日傘 |
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自己主張なんだか愚痴だか蝉の鳴く |
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自らを分解山茶花散る時は |
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滴りの形のままの氷柱かな |
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身の程のものを負ひけり蝸牛 |
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下萌や地球の産毛となりにけり |
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蓑虫やつまめば命やはらかき |
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終戦日メタボあまたのこの国の |
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もう一つ食べようか止めようか桜餅 |
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春菊の香や垂直に立ちゐたる |
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もぞもぞの音のしてゐる啓蟄や |
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心身のこはばり解け寒の明け |
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やる気有る無し全く不明の海鼠かな |
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甚平を着て休日の顔になる |
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柔らかきことの無防備青芋虫 |
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好きな文字拾ひ食ひしてきららかな |
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指先で揺らし蓑虫らしくする |
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節分や赤鬼青鬼胸に飼ひ |
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よく喋る人の扇子のよく動き |
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総身にまぶし新緑の風なるよ |
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夜寒なり急須の湯気を注ぎ分ける |
50 |
双蝶の時々口づけしていたる |
100 |
わだかまりほどけぬままや枯葎 |
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