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藤森荘吉 (ふじもり そうきち)
1 初夢や夢が力となることも 2 美しい日本の言葉御慶述ぶ
3 鳴り出して皆とり出す初電話 4 へたうまのいも版が出来年賀状
5 浪花へと二月礼者となる赴任 6 靴墨のまだやや硬き余寒かな
7 橋の名になじみも増えて淀の春 8 自転車の荷台を狙ふ春の風
9 窓辺ではあくびが春を待つてをり 10 あくる日は跡形もなき春の雪
11 くぐりゆく八百八橋春の水 12 風吹けば風に従ふ落花かな
13 春の宵ぱつと明るくなる花屋 14 完璧主義で心配性の春愁ひ
15 子猫寄る愛情少し分けてやる 16 鼻濁音上手くなりたり杉の花
17 初蝶がホームページを飛んでゆく 18 井の中を楽しんでゐる蛙かな
19 この店にとんと御無沙汰夏のれん 20 紫陽花をさっと挿したるジョッキ大
21 紫陽花の中に子猫の顔のあり 22 梅雨最中疲れやすいに丸つける
23 釣堀やまたもあいつと鉢合せ 24 エレガントに消えてゆく猫木下闇
25 雨あがりすぐまた出来し蟻の道 26 うな重を護岸工事のやうに食べ
27 ビール酌むややこしいことかなわんわ 28 単身寮裸同士のすれ違ふ
29 聴講の合間に開く扇かな 30 思い切り今日一日を日焼して
31 飼犬が目覚め飼主また昼寝 32 炎天下脳を鍛へてゐるつもり
33 雨傘が日傘呑気と呟きぬ 34 朝顔の鉢の重さとすれ違ふ
35 蜻蛉の眼に映り居る世紀末 36 長き夜やはたと気がつく勘ちがひ
37 考へぬこともまた知恵秋の空 38 日曜の下り快速初紅葉
39 天高し綿をちぎつたやうな雲 40 驚きて立ち上がる猫木の実落つ
41 恥かくも一つ成長運動会 42 言ふなれば日本の車窓稲の波
43 秋深むまだ遊びたき子供達 44 東京に星の見えない冬の空
45 おもむろにマスクはみ出す大あくび 46 スクラムや息の白きがかたまりぬ
47 マイペース守れぬ定め年の暮 48 居酒屋の格子師走の世を隔て
49 年忘れそれだけならず物忘れ 50 ポケットに仕舞ひ込んでも悴む手



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