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足立淑子 (あだち よしこ)
1 鬱の字がマス目はみ出る五月闇 2 新記録でました水着替へたから
3 釣上げた鮎てのひらで主張する 4 鉄砲水すべてを忘れ去るように
5 黙契の六月三日晴れだろう 6 梅雨の蝶なんじ姦淫するなかれ
7 身中にもやもやの虫飼つてゐる 8 梅雨さなか五感が赤を拒絶する
9 指先からしたたり落ちる汗を見た 10 梅雨の入り外資ファンドにのめり込む
11 凄まじいいぢめ目高の学校に 12 病んで知ることの多きや魂送り
13 昼間見しあれは確かに鵙の贄 14 よるべなきこの身と秋の金魚かな
15 枯蟷螂ベテランらしい顔かたち 16 針供養すこし悲しい母の恋
17 さくらんぼ急に逢ひたくなつてくる 18 佐保姫から天地無用の荷が届く
19 陽炎と回転木馬から降りる 20 凝りすぎた嘘が通じぬ四月馬鹿
21 透明な傘へ淡雪すきとほる 22 涅槃図の隅に気取つてドラえもん
23 昭和の子ラムネの喇叭飲み得意 24 しばらくは逢へぬカルチャー夏休み
25 春愁のきはみ学校五日制 26 青息も吐息もなぜか黴臭い
27 水中花へミネラルウオーターを注ぐ 28 ピント少し外れて写る七五三
29 独り居にエンゲル係数のうなぎ 30 唐辛子煮つめすぎてる妻の乱
31 老いてなおバレンタインデーの期待 32 サングラス替へて男を寄せつけず
33 カーナビに逆らつてゐる雪の道 34 雑炊ができあがる頃眠くなる
35 マイペース崩さず春の海のたり 36 一葉も英世も馴染む春財布
37 木の芽和へ歯間ブラシにひつかかる 38 ウオームビズ疾うの昔に貼るカイロ
39 綿虫を拡大コピーしてみよか 40 無防備な母へ水鉄砲射つ
41 シュレッダーにかけし書類の九月尽 42 新蕎麦を不協和音がすすりだす
43 烏瓜ぶらり取り付く島もない 44 困らせるために次々舞う枯葉
45 身内みな少子化年玉が余る 46 くたびれてしまったらしい走馬灯
47 蛞蝓に鈍感力は負けてない 48 好物をまず平らげる生身魂
49 秋の蚊を少し許している腕 50 春の果海路に欲しい信号機



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